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(この話は長編・「Another Story」の設定を遵守しています) 秋…。盛大な十五夜の団子パーティから1ヶ月が経ち、 ようやく持って夏は列島から去っていったらしかった。 確かに熱くてかなわなかったが、この身体ごとどっかに持って行かれそうになる 冷たさを含んだ風はどうにも苦手だ。矛盾してるねぇ。 深い緑はすっかり赤、あるいは黄色に変わって、 この通学路も売れない画家の絵くらいには様になってるんじゃないかって風情がある。 今日も健気にその絵の中の通行人Aと化している俺だったが、 まぁ、なんだろうね。しばらくは何にもなかったし、まさにそれがゆえ、 そろそろ何かしら発生しなければおかしいのではと考えてしまうのは もはや職業病、いや、団員病か?そんなものがあればの話だが…。 教室では文化祭の話もちらほら出始めているが、 なんせやる気のないうちのクラスのこと、本格的に動き出すのはもうちょっと 先のことじゃないかね…などと思いつつ、俺は40過ぎの中堅サラリーマンよろしく よっこいしょといつもの席に腰を下ろす。 窓を開ければ涼しい風が吹いてくるので、もうノートを団扇代わりにする必要もない。 1週間後は中間テストだったが、一瞬思い当たった直後に俺はそのことについての思考を放棄した。 「ねぇねぇ、文化祭でうちのクラスは何をやるのかしら?」 後ろの女、涼宮ハルヒは、シャーペン攻撃と同時に俺の後頭部に言葉を投げた。 「さぁな、このクラスのことだ、出来上がるものもたかが知れてるんじゃないか」 まぁ、うちのクラスに限らず、しょぼい公立高校の文化祭の出しもののアベレージなど、 わざわざここで行数を裂いて語るまでもないね。 だが…このクラスがもし全く無気力なままに文化祭を向かえようとしたら、 それはそれで困った事態になるような予感もしているんだ。 きっと失望したハルヒは、次の瞬間「私たちで何か出し物をすればいいのよ!」とか 言い出すに決まって… 「SOS団でも何かやらない手はないわよね!」 俺がモノローグを終えるまでもなくハルヒは予測を見事に実行してくれた。 もしこの世にハルヒダービーなるものがあれば大賭けの大儲けできるだろうね。 そんなもんが存在した日にはこの世の終わりもいよいよ近いだろうが。 ってなわけで放課後だ。 俺は古泉とまわり将棋をしていた。 おおむね俺が勝っていて、これはまぁいつものことなので特筆すべき点もない。 朝比奈さんは最近紅茶に凝りだしたようで、かつて湯飲みを満たしていた 緑色の液体は、この山の木々と連動するかのように、今は朱色になっていた。 俺としては、今までどおり緑茶であった方がよかったのだが…。 長門は季節が秋になったことに伴って…なのかは分からないが、 読書の秋と脳内プログラムの一行目にコードが書いてあるかのごとく、 普段の倍近い量の(これは俺の感覚測でしかないが)ページを繰っていた。 で、団長様であるが、放課からかれこれ1時間ほど姿を見せない。 同じクラスではあるものの、一緒に部室に行く、なんて 鳥肌の立つ行動をすることは滅多になく、大抵はどちらかが掃除当番だったり、 何かしら思いつきの準備に奔走していたり…まぁそのどっちかの理由で、 俺とハルヒが同時にここの扉をくぐることは少ないのだった。うん。そうなんだよ。 ハルヒが扉を開ける時は、大抵威勢よくバーンと音響がするが、 驚くべき事にかちゃりとノブがひねられ、しずしずと歩を進めてきた。 いや、別に落ち込んだ様子があるわけではない…ように見える。 「さて、今日も部室の掃除をしなくちゃ」 第一声。誰の?分からないか?まぁ無理もないか…。 俺は驚きの連続で、それは他の団員も同じらしかった。 古泉は微笑顔がこころなしか強張っている気がしたし、 朝比奈さんはきょとんとして大きな愛らしい瞳をぱちくりしていたし、 長門ですら先ほどの倍速読書を通常ペースくらいには速度を落として、 目の端でどこかおかしいこの人物を見ているようだった。 さて、無意味に引っ張りすぎたね。そう、つまり、ハルヒが入ってきて早々に 箒片手に掃除を始めやがった。部室の。なぜだ?今まで一度でもそんなことがあったか? 「ふんふんふーん、ふふふふふん♪」 にこやかに笑いながらハミング…しているこいつの行為は、 普段なら朝比奈さんの通常業務で、それはすなわちハルヒは決して自分ではやらないことであり、 簡単に言ってしまえば雑用だった。時によっては俺の役目でもある。 「ハルヒ…?」 俺は上ずった声を抑えられず言った。まぁしょうがないと思う。 「なぁにキョン?私はいま掃除中なの。用件ならあとにしてくれるかしら」 言うなりそのままさっさかとチリトリからゴミ箱へ埃やら何やらを移し、 今度ははたきを持ち出して部室内の壁をぽこぽこやり始めた。 …何だ?急に潔癖症にでもなったのか?ハルヒが掃除?天変地異か? などと考えるのはさすがにオーバーかもしれないが、それは俺が今まで体験してきた 事柄をふまえての事であって、そういう時は大体こうやって日常に対するささくれのような 出来事が、不意に俺たちの前に去来してくるのであった。 これもそうなのか? 「おっはなに水をーあっげまっしょう~」 掃除が終わると今度は花の水を変えるべく花瓶を持って部室から出て行きやがった。 これはどうなっているのか。俺はすぐさま向かいの人物に対しこう言った。 「今度は何だ?」 「僕が訊きたいくらいですよ」 古泉は未だ強張った微笑フェイスのまま言った。こいつなりに気持ち悪さを感じたのだろうか。 他の2人を見ると、朝比奈さんはふるふると首を振り、長門は最早 倍速読書に戻っていて、長門的には大したことではないらしかったが、 いや真っ当な感性を持つことを自負している俺としてはどうにもむず痒いぞこれは。 またどこかしおらしくハルヒは戻ってきて、花瓶を長門のテーブル脇にそっと置くと、 上機嫌のまま団長机に腰掛けた。のだが…。 「みくるちゃん、お茶くださる?」 この言葉に朝比奈さんは数秒反応できず、なぜって、ハルヒは何かシニカルな調子で こういう口調をとることはあっても、決してどこかの有名私立校のお嬢様よろしく微笑みかけて 湯飲みをさし出したりはしないだろうから…だ。 明らかにおかしい。どこかバグッたかショートしたか、何かの設定がいじられたか… とにかくそのようなことがあったとしか思えない。 さらに極めつけは、 「ねぇキョン、今度の休日に一緒に買い物に行きません?」 などと俺の皮膚が分離して脱皮できてしまいそうなことを言い出した。 「…お前、風邪か?」 口をついて出たのはそれだった。うん、きっとそうだ。 こいつは普段風邪なんてものとは無縁の生活を、そうだな、何年も送っていただろうから、 そのツケが今このときに回ってきて、それには季節はずれの花粉症やら何やらも混入されていて、 えーとつまり… 「熱があるんじゃないか?」 俺はハルヒの額に手をあて、残った方の手で自分の額を押さえた。 平熱。俺自身がインフルエンザにでもかかっていない限りこいつはいたって普通である。 俺は今自分なりに普通モードの思考形態を維持しているはずだから、やはりこいつは健康体のはずだ。 「何するんですか?私は何ともありません!離してください!」 ハルヒは少し腹を立てたようだったが、それがまた奇妙だった。 行動で表すのははばかられるから、大人しく首だけ横向けてつんとしているような…。 なんだか元のハルヒがどんなであったか一瞬忘れそうになったが、 部活を作ると言い出したときのあの表情を思い出して俺は何とか自分をつなぎ止めた。 「それで、買い物には付き合ってくれるんですか?」 …えーと、俺は何て言ったんだっけ? 例えばこれが小説だったとして、いきなりこのように人物設定が変えられてしまったら、君は想像がつくだろうか。 いや、俺は当事者である以上想像どころか現状を鵜呑みにしなきゃならんわけだが…。 そんなわけで俺はなぜいつもの待ち合わせ場所に一人でいるんだろうね。 15分前。待ち合わせ場所に着く時には俺はいつだって最後で、 それは誰かの謀略でしかなく、それがハルヒによるものであれば俺は両手を上向けて いつもの言葉を言うしかないのだが、今日のこのシチュエーションは一体どういうことであろうか。 のっけからぶったまげる事うけあいなセリフをハルヒは言った。 「遅れてごめんなさい!待ちましたか?」 小首を傾げてこっちを上目遣いでうかがっていやがる! 「ちょっと待ってくれ」 俺は近くの公衆トイレに向かい、自分が見たこともないような複雑な表情、 というより、取るべき表情を選びすぎた結果全部足して平均を取ったような、 何だか分けのわからん表情をしているのをみて、顔を洗って頬をぴしゃりと叩いた。 さし当たっての処置として、俺はこいつ、隣りで端整な表情を前に向けている女を別人として扱う事にした。 そうだ、俺はふとした事で知り合った女性と今日この日だけ買い物に付き合って、 その後は笑ってバイバイ、あぁ楽しかったねと無事ウィークデーに復帰するわけである。 学校でならまだ他の団員がいるわけだし、こんな切り替えをせずとも何とかなる…というかなってくれ。 「前から買いたかった服があって…貯金してたんです」 とこのどこかの国の住人さんは言った。 ん?いや、どこかの町に住む少女は言ったんだよ。うん。 買い物場所は待ち合わせの駅に唯一あるデパートの女性服売り場だったが、 こいつのチョイスを見た俺は思わずギクリとしてあたりをキョロキョロしてしまった。 今のうちに言っておこう。今日の俺は自意識などとうにわやになっていた。と。 これは明らかに朝比奈さんの守備範囲だろう。 お嬢様風というか、どこかのパレスガーデンを歩いてそうというか、 日傘もオプションでつけたら素敵ですね…みたいな。まぁ…そんなの…だ。 眩暈がした。何にかは俺には分からないぜ。 今日一日こいつはこの格好で街を歩くつもりなのか…。 「楽しいですね、ふふ」 悪い予感ばっかり当たるのは何故だろう。分かった人はここに特電をかけてくれ。 ちなみにイタズラ電話やら出前と間違えてかけたなんてのは勘弁だぜ。 これは第三者から見たら、というか、俺から見たって何の変哲もないデートであった。 ちょっと待て、これはないだろう、以前の問題だ。 どこぞの三流作家でもこんなベタな展開には飽き飽きだろうが。 「お前、正気なのか?」 「何がですか?」 「っていうか何で俺だけ呼ぶんだよ」 「だって、いつも5人だったでしょう?たまにはいいかなと思って…」 そんな可憐になるな。うつむいてしゅんとするな。映像担当の人が困るだろ。 いやそんなことはどうでもいいんだ。 「お前昨日の記憶あるか?」 「昨日?」 時間は昼になっていて場所はレストランになっていた。 今のところお馴染みの喫茶店の出番はないらしく、マスターの顔を拝むのはしばらくおあずけかもしれん。 「そう。特に昼以降のだ。」 こいつが普通だったのは昨日の授業中までだと思うが、 昼休み以降は会話した覚えもなかったので、そこから先は普通だったか疑問である。 「そうですね…昨日は、お花に水をあげて、掃除をして…」 言葉だけ切り取ればそのまんま朝比奈さんな文面だったが、声の主は間違いなくハルヒで、 見ていると混乱した挙げ句思考に支障をきたしそうだったので俺は片手をテーブルにおいて 頭を抱えるように視界をさえぎった。 「その前は…図書室に行っていました」 あの1時間か。それで?何でまた図書室なんかに行ったんだ?らしくないな。 「えぇっと…ファンタジーの資料というか、物語を集めに…」 まさか文化祭の出し物の準備じゃないだろうな…。 「そうですよ?クラスでやるものを提案しようと思って」 どうやらキャラクターまで変わってしまったらしい。 きっと今のこいつなら道端に落ちてる1円玉ですら拾って交番に届けるだろうし、 もちろん老人や妊婦がいたら席を譲り、もしかしたらタバコの吸い殻とか空き缶ですらちゃんと クズカゴにいれるかもしれない…。 「その時に、何かおかしな物はなかったか?」 「おかしな物?」 だからきょとんとするな。そしてそれを見るな俺よ。 これはよくあるヒーロー物の悪の組織が俺をたぶらかすために仕組んだ演技だと思え! 内なる波をなんとかいなしながら俺は質問を続ける。 「そうだ。例えば本のひとつから妙な感じがした、とか、 司書のおばちゃんの視線が何か不自然だった、とか」 「そんなことないですよ?本は綺麗でしたし、おばさんはいい人でした」 …見当がつかん。所詮俺ひとりで解決するのは無理なのか。 その後の俺は混乱するだけで一日を終え、帰ってきて 今までのSOS団市内探索のどの回より疲労していた。あいつは誰だ。 ベッドに突っ伏してそれらしく唸っていると、かちゃりと扉が開いて妹が顔を出した。 「お兄ちゃーん、ノリ持ってなーい?」 俺はそのまま机の方を指差して、後は何も言わなかった。 …えーっと、涼宮ハルヒはSOS団団長でフランクかつハイテンションのヒステリック…。 などと特徴を脳内で箇条書きにしているうちに俺は眠ってしまった。 何となく、俺はこの問題に関しては誰の助けも借りたくなかった。 どうも問題はハルヒの性格ダイアルが反対方向に回ってしまったことのみらしく、 それで他に問題が起きるとも思えず、むしろ迷惑自体は地球全体で見れば減っているはずだ。 だが戻さないわけにはもちろんいかない。ハルヒがこのままだったら俺は一週間もしない内に発狂する。 二時限目だった。数学の吉崎がねちっこく新しい公式を説明していた。なんのこっちゃ。 「やれやれ」 我ながら今日のこのセリフには覇気がなかった。いや覇気というのか分からんけどもだ。 転機となったのは昼休みの国木田のこのセリフだった。 「昨日の涼宮さん、何か変じゃなかった?」 いや今日も順調に変だぞ。大好評継続中だ。なんて授業中じゃ分からんか。 というか変なのは年中そうなのであって、今回は変なのが普通になったから変なわけで…。 「そういや今日も何となく大人しいな」 谷口が唐揚げを口に含みながら言った。 「うん、何か昨日の昼休みの初め、ぼーっと空を見上げてたんだ」 国木田が答えた。別に窓の外を見てるのは珍しいことじゃない。 「でもね、何だかそこに何か見えてるような視線だったなぁ」 「涼宮が普通の人間には見えないものを見てるのはいつもの事だろ」 谷口が言い飽きたと言わんばかりに返す。 「どのへんを見ていたか分かるか?大体でいいんだが」 俺は国木田に訊いて、国木田は窓から右、校庭の先には街並みが広がっているだけの方向を指差した。 すぐさま窓に近付いてそっちの方を見てみたが、もちろん何もない。 「そりゃそーだろ。キョン、お前は普通の人間なんじゃないのか?」 もちろんさ、谷口のこの言葉に含みなんかなく、文字通りの意味だろうが、 俺はいつだって面接で言ったら即不採用になりそうな妙な経歴はない。 さて、俺は部室で悶々としていた。 ここで何も思い浮かばないようなら通例に則って古泉、または長門あたりに助けてもらうことになりそうだが。 「お困りでしたら、相談相手になりますよ」 という古泉の申し出を俺は「まだいい」と言って断った。 長門はその時だけこちらを見ていたが、それを聞くとすぐに倍速読書に戻った。 せめてあと1日粘ってみよう。自分でも何故こんなに頑固になっているのかは分からない。 そういう時だってあるもんだ。思春期のせいにでもしとけ。 ハルヒは今日も掃除と水替え、さらには朝比奈さんの仕事を奪ってお茶汲みまでおっぱじめた。 「あの…それは私が…」との朝比奈メイドの言葉に、ハルヒは 「いいんです。いつもやってもらっていますから、たまには私が」と、 歯が20本総出で緩んで外れてしまいそうなことを言い、ついでに 「キョン、今日も付き合ってほしいところがあるの」 と言って俺を完全にノックアウトした。 俺だってもううんざりな心持ちさ。 いっそ俺も呆我してしまえればよかったが…まだくたばるには早い。 ハルヒが俺を誘ったのは、自宅からさほど遠くない小さな公園だった。 「私ね、たまに不安になるのよ」 「何が?」 半ば投げやりに俺は言った。例によってハルヒの方は見ない。 「SOS団の皆は私のことをどう思ってるのか」 これには虚を衝かれた。突然そこに戻るんだな。 「だって、私が作った団体だもの…。毎日が楽しくなればいいと思って」 今のこいつの脳内でどういう経緯と設定があったのかは知らないが、 少なくともどうやってかハルヒが団員を集めた事には変わりないらしい。 「だから古泉君や有希、みくるちゃんが退屈してないか、たまに不安になる」 退屈とはむしろ逆の方へ向かう事しばしなのでそのへん心配はないが、 これは果たしてこのハルヒ限定のことだろうかと、ふと俺は思った。 「ある日突然、皆がいなくなってしまうんじゃないかって、時々思う」 気付けばハルヒの方を向いてしまっていた。が、別人だと思う必要はないように感じられた。 あの七夕の日の、どこか物憂げなハルヒがそこにいて、一時的に人格が変わっていようが、 そういったごく稀に見せる部分は共通項としてこいつの中に存在しているらしかった。 「だから、そんな時にふっと窓の外を見たりして…」 ハルヒはくすっと笑って、どうやら別人格モードに入りそうだったので俺は再び前を向いた。 「あ。あのな、ハルヒ」 「なに?」 視線を感じたがそれには応じない。 「そんな心配は全くの思い過ごしなんだ。俺は、いや、お前以外のSOS団団員は、 この団に入ってよかったと思ってるし、そうでなかったらきっとこの日常はありふれた つまらないものになっていたとも思ってるぜ」 「…。」 ハルヒはまだこっちを見ているようだった。何かを言いそうにはないので、俺は続ける。 「だからな、そんな事は取るに足らない。お前はこれからも団長でいればいいし、 思いついたことをどんどんやってくれれば、それで俺たちは楽しいんだよ」 このハルヒが実行する思いつきは果たしてどんな物になるのだろうと思いつつ、 しかしそれに対し自分で答える間を与えず、ハルヒは言った。 「そっかぁ…。そうだよね」 「あぁ、気にしなくていい、お前が憂鬱だと皆が元気じゃなくなるぜ」 「ありがとう、キョン」 ハルヒはぼーっと空を見上げた。もう夜だった。 曇りらしかったが、切れ間に星が見え、輝きを返す。 ―その時だった。 ハルヒが急に動かなくなり、一瞬目に暗闇が落ちた…と思いきや、また輝いて、気を失った。 「ハルヒ!」 俺は頬を叩いた。いきなりどうしたんだ?? 「ハルヒ!しっかりしろ!」 「…」 「ハルヒ?」 「…ん?」 「大丈夫か?」 「…キョン」 「あぁ、俺だ。大丈夫か?お前…」 「何やってんのよ」 「何ってお前…」 バシッ! ある種王道、と呼べなくもない展開である。 なぜなら、俺はハルヒが倒れた拍子にこいつを抱き起こしており、 それで何故叩かれたかというと、もちろんさっきまでのこいつならそんなことはしないはずで、 つまり端的に言ってしまえば…戻ったのだ。こいつは。 何でだろう? 「あんた、あたしになにしてたのよ!」 「何って、何もしてない」 俺は断固として言った。ハルヒに何かしてひっぱたかれるくらいなら、 いっそ朝比奈さんを抱きしめてアイラブユーとでも言った後にこいつに 絞首刑にされるほうを俺は選ぶね。 「そもそも、あたし何でこんなところにあんたと二人でいるのよ!」 お前が誘ったんだ、と言うと今度は平手がグーに変わりそうだったので、 「お前が俺の家で文化祭の計画を練るって言った帰りに、お前は失神した」 と言ったが、こいつは簡単には信じず、 「あたしが失神?何でよ、そんな経験今まで一回もないわよ」 だが起きてしまったんだ。と結果論でまとめようとした俺に、 「じゃぁすぐさまあんたん家で文化祭の企画を考えるわよ! っていうか何であんただけなわけ?今からでもみくるちゃんと古泉君と 有希を呼びなさい!」 まず命令すんのかよとわざわざ言ったりせず、 俺は携帯を取り出してプッシュを開始する。 そうして見事に、文化祭企画会議第一回が開催されることに…なってしまった。 「涼宮ハルヒはこの星系から7つ離れた空間に位置する意識体の発信した念波を受け取った」 …長門の説明である。 普通の人間であればもちろん受信できないし、現時点で地上のいかなる技術力をもってしても、 それを確認できる距離にはないそうだ…。 相変わらずデタラメだな。俺が傍観者なら笑い飛ばしているところだ。 だが長門はいつだって真実しか言わないのである。 少なくとも長門が嘘を言った事はこれまでにない、はずである。 その念波によってハルヒはあの性格になっちまい、 さっきの星の方角にあった逆の波動によって元に戻った、と、 何とも後付け設定的匂いのプンプンする解説だぜ。 これが古泉のものだったら俺は脳に止める事を拒否していたかもしれん。 ちなみに波動はピンポイントなもので、今後地球に命中する確率は天文学的数値らしい。 ふと俺はさっきまでのハルヒを思い出し、外に鳥肌、内に吐き気を感じ、 すぐさま休日の出来事も一緒にフォルダごとごみ箱に捨ててしまった。 ハルヒは5人で入るには狭すぎる俺の部屋で、ベッドの上で仁王立ちして計画をぶち上げた。 …それはまぁ置いておくとして、こんな事件はいい加減マンネリではないのかね? などと考えつつSOS団員達を睥睨して、溜息。 それでも感情は裏腹だな、と気付いてしまった事は、俺の胸の家だけに秘めておこう。 ごみ箱に入れただけで完全に消去してはいない、あのハルヒの記憶と一緒に。 終了
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3079.html
キョンの病欠からの続きです …部室の様子からもっと物が溢れ返ってる部屋を想像したんだが…。 初めて入ったハルヒの部屋はあまり女の子らしさがしないシンプルな内装だった。それでも微かに感じられるその独特の香りは、ここが疑いようもなく女の子の部屋なのだと俺に認識させてくれた。 「よう、調子はどうだ?」 「……だいぶ良くなったけど…最悪よ」 …どっちだよ。 ハルヒは少し不機嫌な表情でベッドに横になっていて、いつもの覇気が感じられなかった。いつぞやもそう思ったが、弱っているハルヒというのはなかなか新鮮だな。 「ほら、コンビニので申し訳ないが、見舞いの品のプリンだ。風邪にはプリンなんだろ?」 サイドテーブルに見舞いの品を置くと、ハルヒはそれと俺の顔を交互に見つめて訝しげにこんなことを言ってきた。 「……あんた、本当にキョン?中身は宇宙人じゃないでしょうね?あたしの知ってるキョンはこんなに気が利かないわよ?」 弱っていても失礼な奴だな、お前は。俺にだってこの程度の気遣いは出来る。 「…ま、昨日は世話になったからな」 実際、熱にうなされ苦しんでる時にハルヒの存在にどれだけ救われたことか。あと、その風邪を移したのはほぼ間違いなく俺だろうしな。 そう思うと俺は何かせずにはいられない気持ちになってしまい、その素直な感謝の気持ちが俺に自分らしくない台詞を口に出させていた。 「何かして欲しいことあるか?宇宙人を連れてこいとかいう難題以外なら、今日は素直に言うことを聞いてやろう」 俺がそう言うとハルヒは黙ってしまった。時計の秒針の音だけがカチカチと部屋に流れる。 そろそろ沈黙が痛くなってきて、俺が自分の台詞を後悔し始めた頃、ハルヒは絞り出すように少し震えた声でお願いを口にした。 「…………手」 「ん?」 「……昨日みたいに手を握りなさい」 「ああ…」 差し出された右手に俺も右手を重ねる。……素面でやると結構恥ずかしいもんだな。 ハルヒの熱が伝わったのだろうか?俺の顔も熱くなってきた。きっとハルヒの手が熱いからだ。うん、そういうことにしておいてくれ。 「……あと、頭撫でなさい」 ……そんなことを命令口調で言っても威厳はないぞ? 「……早くしなさいよ」 恐る恐る手を伸ばし髪に触ると、ハルヒは一度ビクッと強張ったが、その後はおとなしく髪を撫でられていた。 そうしてさわさわと撫で続けていると、ハルヒはくすぐったそうに目を細めていたが、少し無理をして起きていたのか、1分もしない内に眠りの世界へと落ちていった。 どのくらいそうしていただろうか?目の前のハルヒからはスゥスゥと規則正しい寝息が聞こえてくる。 黙っている時のハルヒは反則的なまでに可愛く、それがまたあどけない寝顔なのだから、じぃっと見ていると妙な気分になってくる。 いかんいかんと頭を振りながらも、俺はどうしてもハルヒの寝顔から目を離せずにいた。 今までこんなに穏やかに、じっくりと、しかも本人の目の前でハルヒについて考えたことはなかった。 だからだろうか?その事実に気が付いてしまい、そして驚くほどすんなりとそれを受け入れることが出来たのは。 俺はなんだかんだでハルヒのことを憎からず思って…いや、むしろ積極的な好意を持っている。 「……そうか、俺はハルヒのこと好きだったんだな」 それを言葉にして口に出してみると、急に落ち着かなくなり恥ずかしさが込み上げてきて、俺はハルヒが起きる前に帰ってしまうことにした。 椅子から立ち上がり鞄を手に取ろうとした時、俺はハルヒの額に浮かんでいる汗の存在に気が付いた。 …クソ、気になっちまった。 ハルヒの穏やかな寝顔に似合わないその汗がどうしても許せず、気が付くと俺は枕元のタオルを手に取っていた。 ハルヒの額の汗を丁寧に拭うと、シミひとつない白い肌が露になる。純粋に綺麗だな…と思っていると、ハルヒは不意に俺の名前を呟いた。 「……ん…キョン…」 「…………」 チュッ …………待て、俺は今何をした? 俺の唇に残るほのかな温もりは間違いなくハルヒのそれであり、ハルヒの額に残る微かな赤みは間違いなく俺が付けたそれだった。 要するにキスだ。キス?額にとはいえ俺がハルヒにキスをしたのか? ぶわっと今度は俺の額に汗が浮かんでいくのを感じる。ハルヒの寝息が聞こえなくなるほど心臓の音は大きくなっていった。 俺の頭に窓から逃げようという意味不明な選択肢が浮かんだ瞬間、ハルヒは静かに目を覚ました。 「……ん」 ゆっくりと、ハルヒの目が開いた。 ヤバイ、怒鳴られる。いや、むしろ殺される。 上がりっぱなしの心臓の回転数は今にも限界値を突破しそうだった。 宇宙人でも未来人でも超能力者でもいい、自業自得なことも分かってる、それでもお願いだ。時間を1分前に戻してくれ! 「……あ…今少し眠ってた?」 …気が付いてないのか? 「…え?あ、そうだな、10分くらいかな?」 …気付かれなかったことにほっとした反面で、少し残念に感じるこれはどういった感情なのだろうか? こちらの動揺をよそにハルヒは俺をじっと見つめ、なにげない一言で止めを刺した。 「今日はありがと、キョン」 「…ッ…」 その素直な感謝の言葉が胸に刺さり、心臓が止まりそうなほどの罪悪感が俺を責める。こんな気持ちになるのなら、いっそのこと気付かれて公開処刑されたほうがまだマシだ。 脳内裁判にて裁判長・長門が俺に有罪を言い渡したところで、目の前に予期せぬ逃げ道が現れた。 「…ふゎ…まだ眠いからもう少し眠るわ」 「あ、あぁ、眠いなら寝たほうがいいぞ、うん。なんせ風邪だからなっ」 自分でも不自然だと思える早口に俺の動揺は更に深刻なものになっていき、それがとんでもなく卑怯な行為だと理解しつつも、俺には真実を語らずに逃げ帰るしか、自らを落ち着かせる術はなかった。 「じゃ、じゃあ、俺は帰るな!また明日っ」 バタン! 転がるようにハルヒの家から出ていくと、外は既に暗くなり空には綺麗な月が浮かんでいる。 ふとハルヒの部屋を見上げると、まだ眠ると言ったはずのハルヒがこちらを見下ろしていた。 何か言っているような気がしたが聞き取れるはずもなく、俺は明日からどんな顔でハルヒに会えばいいんだろう?と思いつつ、逃げるように家路に着いたのだった。 「……どうせなら口にしなさいよ、馬鹿キョン」 End
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第一章 3月も末に入る。 ついに1年も終わり、2年生へと向かうのだが、自覚も湧かない。 地獄のような坂で谷口の話を聞くが右の耳から左の耳へと通り抜ける。 授業も学習範囲を終え、自習に近い時間が多くなる。 ………憂鬱だ。非常に憂鬱だ。 そんなアンニュイな気分を勝手に打破するのは、我が団体の団長様だ。 今なら、ハルヒの厄介事に付き合っても良い。 すぐに「やれやれ」と言いながら、前言撤回するのはいつもの事なのだがな。 放課後 俺はドアをノックして中に入る。 はい、前言撤回だな。 いつもと変わらない部室。 だが、異常な空気だけが立ち込めていた。 原因はあいつとわかりきっていたが… 「あ、こんにちは。い、今お茶いれますね。」 おどおどしながら、朝比奈さんは俺のためにお茶をいれだした。 「やあ、どうも。」 苦笑混じりの古泉が話かけてきた。 「これは、何だ?」 「さぁ解りません。」 古泉は手をひらつかせるポーズをとる。 「ただ、彼女は不機嫌なのでしょうね。」 「はい、お茶です。」 目の前に湯呑みが置かれた。 「いつも有難う御座います。ところで、朝比奈さんは何があったか知ってますか?」 「さぁ………わたしが来た時には、もうあの状態でした。」 「心配なら、直接聞いてみては、いかがでしょうか。」 「だが断る。」 どうせ、あいつから話す時は来る。それまで気長に待とう。 できれば、話して欲しくはない。 「ねぇ、キョン。」 ほら来た。 「自分の一番信頼する人を殺すってどんな気持ちかな?」 「やれやれ」では済まない事くらい気づいた。 それが悪夢の始まりだった事くらい……な。 古泉は似非笑いが消え失せていたし、 朝比奈さんは、ド派手に転んだ。 長門に至っては、いかれたアンドロイドのようにハルヒを凝視している。 「聞いてるの?キョン」「聞いたが、質問の意図が分からん。」 そう問うと、ハルヒはしばらく黙り、面倒臭そうに話した。 「今、あるアーティストのPVを見たのよ。」 それは、誰もが知る超有名ロックバンドだった。 そして、そのPVの内容にえらくはまってしまったらしい。 ハルヒはその内容を説明するが、えらく長いので俺が要約するのをお前らに見せる。 男は言った。 「このナイフには、記憶がある。」 ある老人が一人。 かつての栄華は見る影も消え失せ、唯一人寄り添って世話をする執事が一人。 自らの悲運を嘆き、自分の死を悟った老人は、一本のナイフに呪いをかけた。 「今から100年の後、このナイフが世界の終末をもたらすように……」 ナイフの呪いに立ちはだかる者は、自らの意識に反し、人を殺める。 主人の企みに気づいた執事は、このナイフを処分してしまおうとした。 だが既に呪いは始まっていた。 長年に渡ってひたすら仕え、敬愛してきた主人の胸にナイフを突き立てる執事。 直前に主人の耳元で囁いたのは、その行為とは裏腹に自分が如何に貴方を尊敬し、 その下で仕えた自分の人生を誇らしく思ったかという、愛に満ちた言葉であった。 その後、このナイフは世界中を巡る。手にした者の信頼する人を殺めながら。 長いだろ。 まだ続きがあるらしいのだが、割愛させて頂く。 何故かと聞かれたら、実際に見ていない人の楽しみを奪ってしまうと弁明する。 決して面倒な訳ではないぞ。 続きは、自分の目で見てくれ。 言っておくが、俺は宣伝マンではない。 「………で、どう思った?」 どう……とは? 「だーかーら!!」 ハルヒ人差し指を突き出して言った。 「さっきの質問に答えてよ。 これ見て何も感じないなら、鈍感を通り越してバカよ。バカキョン。」 そんなにバカバカ言うな。あながち、間違いではないのだが。 「殺す側から見ると、絶望的だな。 何でこんな事してしまったんだって感じか?」 「ふーん。」 「殺される側から見れば、まさかって気分だろう。 でも、一番信頼出来る人の前で死ねるなら、俺は本望だがな。」 「……変な本望ね。」 そりゃどうも。 「お前には殺されたくはないけど。」 「ほーう?このSOS団の団長を信頼出来ないと言いたいの。」 ヤバい。口が滑った。 「いや、違う。そういう意味じゃー」 「もういい!!バカキョン!!」 ハルヒは怒っているようで、どこか哀愁感を漂わせ、 「今日はもういいや。解散!!明日は9時に駅前ね。遅れたら罰金だから。」 と言うと一目散に部室を出て行った。 「相変わらず、女性の扱い方が下手ですね。」 煩いぞ古泉。そして、俺のケツ見て話すな。 「お気にせず。ところで、彼女に今みたいな対応をしないで下さい。閉鎖空間の素です。 その内、僕のストレスも溜まって、あなたのアナr」 黙れ。 「冗談ですよ。一割。」 どこらへんが一割なのだろう。 「わたしが推測すると『お気にせず』の部分だと思われる。」 要らない注釈は困る。 「あなたが求めた。違うの?」 ………違わないさ。 「余談は後にしましょう。もうお気づきですね?あなたは、涼宮さんに殺されますよ。」 涼しい顔でその死亡宣告は困る。 死亡宣告? 「マジか!?」 「ハッキリ言いましょう。大マジです。」 「俺の発言のせいなのか?」 「いいえ、何にせよ彼女はあなたを殺るはずですよ。彼女の見たPVとやらが起点でしょうから。」 どうにか防げないのか? 「我々が全力であなたを保護します。それと、彼女が見たPVを僕達も実際に見てみましょう。」 古泉はパソコンをいじりだす。 十分も経たないうちに、神妙な顔つきになる。 「これは………。」 何か解ったか? 「いいえ、全く解りません。ところで長門さん。涼宮さんの今の精神状態は、分かります?」 「彼女はいたって正常。」 長門が語り出す。 「しかし、あの映像を視聴・理解したと同時に強烈な感情の変化と、 微弱な情報爆発と閉鎖空間を確認。そして先程、再度閉鎖空間を確認。」 「…なるほど、やはりそうですか。」 この二人は多分知っていたのだろう。 俺は古泉を見た。 お前、行かなくて良かったのか? 「生憎、規模が極小でして、それにどちらも直ぐに収まったのですよ。」 「閉鎖空間は発生後、自己消滅した。」 「おや、僕はてっきり誰かが神人を倒したのかと思ってました。」 「消滅までの所要時間は1分42秒46その間に閉鎖空間に出入りした者はいない。」 「それは珍しい。」 「あ、あの!!」 どうしたんですか朝比奈さん。何か理由を知っているのですか? 「いえっ、大切なお話の途中申し訳ありませんが着替えるのでっ。」 もうそんな時間か。 時計を見ると既に5時を回っていた。 「これは失礼、すっかり話し込んでいたようですね。」 古泉と俺は、部室の前で着替えが終わるのを待ちながら、話した。 「かなり話しを戻しますが、」 横のニヤケ顔が話す。 「彼女は愛されたいのです。」 ふーんとしか言えなかった。 「まさに、恋する乙女ですよ。あなたに愛されたいあまり、あのPVを見て、それに自己投影してしまった。」 俺に愛されたいあまり? 「そうです。あなたが彼女への気持ちをハッキリさせないから、 こういう事になるのです。まさに、自業自得ですよ。」 これが自業自得なら神はどれだけ不平等な考えなのだろうか。 だいたい、ハルヒが俺を殺すなんて思うのか? 「それはあくまでも、彼女の潜在意識の下です。彼女の中で 『愛される事』=『死』 の方程式が無意識で成り立ってしまったのですよ。」 ほぼ無意識で大問題を創る気か?滑稽な話だ。 「ええ、これから、いや、もう既に起こっているはずです。」 もしや…… 「長門の言ってた情報爆発とは何だ?」 「多分ですが、彼女の周りで変化が起きたはずです。」 何だ、それは。いや、俺だって分かってる。 「呪いのナイフがこの世界に発生した。」 「そうです。そして、それを手に入れるのは」 ハルヒか? 「場合によっては、あなたかもしれませんよ。 あくまでも推測ですが。」 俺は何をすれば良い? 長門と朝比奈さんが部室から出てきてこう言った。 「もはや、これは規定事項。あなたは逃れられない。」 マジかよ。 「僕はこれから、機関へ戻り、対策を練ります。あなたは、刃物に極力近づいてはいけない。 もし、手にした場合、すぐに僕か長門さんに連絡を下さい。 絶対に死なないで下さいよ。あなたの死は世界の死ですから。」 古泉は俺達に手を振り、帰って行った。 「朝比奈さん、俺はこれからどうなるのですか?」 「えっと、すみません。これは重大な禁則事項です。 キョン君と涼宮さんの死活は未来に多大な影響を及ぼすはずです。 ですので、ここでは言えません。全てが終わる時、話します。 あっ、だ、大丈夫ですよ。長門さんも古泉君も協力してくれますし、安心して下さい。」 予想通りの答えが帰ってきた。この言葉、逆に不安になる。 「ごめんね。キョン君。」 朝比奈さんは小さな頭を下げ、謝ってくれた。 その仕草は可愛く、それを口で説明する事は出来ないくらいだ。 「私としては、あなたと涼宮ハルヒには生きてもらわないと困る。」 俺だって生きたいさ。 「明日は、あなたと涼宮ハルヒを組ませないようにする。2人っきりの場合が一番危険と思われる。」 あぁ、お願いする。 「何かあったら連結して。」 いつもすまないな。長門。 「いい。」 そこで話は終わり、家に帰る。 家に入ると、妹がシャミセンを抱えながら「おかえりー」などと言っていたが、 生憎、俺の頭は混乱状態で、妹の言葉は右耳から入り、左耳より出て行った。 自分の部屋に入り、ベッドに突っ伏す。 頭がもやもやする。 もしかしたら、俺は死ぬかもしれないんが、実感が沸かない。 この一年間、色々な事が起こり、いくら非現実的な話だろうとも、 たいして気にする事もなく、淡々と受け入れるような性格に成り果てたが、 流石にこれはない。 絶対有り得ない。 「キョンくーん。ごはん。」 もう飯の時間か。着替えて食卓につく。 「キョン君どうしたの?元気無いね。」 「お兄ちゃんはもう直ぐ旅に出るかも知れないのさ。」 「行ってらっしゃーい。」 おお妹よ。何故こんな時に「あたしも連れてって」と言わないのか。 お兄ちゃんは、人生で6番目に悲しいぞ。 失意のまま飯を終え、風呂に入り、自分の部屋に戻る。 着信12件 古泉一樹 リダイヤルする。 「もしもし。」 「やあ、どうも。」 「要件は?」 「そっけない返事ですね。まあいいでしょう。 奇妙な事を発見しましてね。」 どうもこいつの言う奇妙な話には、ろくな話はない。 「言え。」 「連続殺人事件。」 「犯人は?」 「捕まっています。主犯を除いて。」 「複数犯か?」 「個別の単独です。犯人にそれぞれ面識はありません。」 それは連続殺人事件とは言わないだろ。 「ええ、面白い事に共通点があります。 一つは、被害者と犯人はごく身近な存在である事。兄弟、親子、恋人などが該当します。 一つは、凶器が見つからない。 もう一つは、その凶器が全て同じ型のナイフ。 これらの意味が分かりますか?」 「警察は凶器を紛失し過ぎ。」 「ここでボケても褒美はありませんよ。」 電話の向こうで溜め息が漏れる。 「まさか、主犯はナイフで、それは、ハルヒの能力が生んだ産物とでも言いたいのか?」 「ええ、その通りですよ。分かりましたね。これは警告です。」 「明日休んでいい?」 「問答無用で死刑になりますよ?彼女は不機嫌になり、閉鎖空間のデパートです。道は残されていません。」 「お前が神人を退治すれば良い。」 「………」 「どうした?」 「いえ、大丈夫です。僕が助けてあg」 「煩い。」 俺は携帯を放り投げ、眠りにつく。 大丈夫。今までなんとかなったんだ。今回だって…… 夢なら醒めて欲しい。 第二章へ
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・涼宮ハルヒの決闘王国 ・涼宮ハルヒの決闘王国2
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「何よ、折り入って話したい事があるって」 ハルヒは、不機嫌なのか照れているのかよくわからない声で俺に質問した。 決意を胸に、俺はその日の放課後、SOS団の活動が長門の本を閉じる音で終わると同時にハルヒを非常階段の下---つまり、誰も来ない静かな場所に呼び出した。 第三者的な目線から見れば、まさにこの状況は、なんとも青春ドラマ的だと思う。 こんな場所で男女が二人きりになるなどという事はつまり、ドラマの中では、すなわちお約束なシーンで、お約束な言葉を言わなければいけないのだろう。 などという事を、考えていた。 「まぁ、大事な話なんだよ。ハルヒ、お前に一番最初に話しておこうと思ったんだ」 俺はハルヒに向かって言う。 「も・・・、もったいつけずに話しなさいよ!!い、いいわ、特別に聞いてあげる!」 ハルヒは二の腕を組みながら言った。自身に満ち溢れている表情、ああ、いつものハルヒだ。 そのことに一先ず安堵し、次に俺の胸を落ち着けた。 「あのなハルヒ、俺・・・」 ===============【涼宮ハルヒの留学】=============== 昔から「新しい」と名のつくものは、好きだった。新製品、新発売、新幹線も好きだし、新大阪なんていう名前もだ。どうしてなのかは俺にもわからないが。まぁ、例に漏れず「新学期」も好きなイベントの一つではあった。 俺達学生にとって一大イベントである「クラス替え」などという決して他人事ではない大切な行事もさることながら、気持ちも新たに登校する学校というのは、どうしてだろう、空気が違うように感じた。 もちろん、そんな事はおそらく俺の勘違いであり。2.3日もすると、いつもの睡眠が俺を襲ってくる事は間違いないのだが。 その日は、俺にしては(あくまで俺にしては)朝から快適な目覚めだった。妹のドロップキックで目覚めるという事が半ば習慣となっていた俺にとって、自らで自らの目を開いたというのは、大袈裟にいえば一種の悟りの境地なのであった。 「あれれ。キョンくんがもうおきてるー」 残念だな、妹よ。今日からお前のドロップキックで起きる俺では無くなったのだ。 ・・・、正直いつまでこの状態が持つかわからんが。せめて三日坊主よりは長生きしたいものだとは考えていた。なにせ新学期なのだ。学年も変われば気分も変わる、なぜか俺はそんな気がしていた。まぁ、新年を迎えようが、学年が一つ上がろうが、ハルヒは相変わらずだろうがな。 なんと言っても、ハルヒは自分で自分の事を崇高で絶対不可侵などとのたまっているのだ。事情も何も知らない一般人的目線からするとかなりのセンで怪しい事を言っているのだと思う。いや、実際その通りなのだが・・・。 まぁ俺はそんなハルヒが立ち上げたSOS団の団員その1、かつ雑用係であり、まぁ、色んな出来事の鍵らしい。俺にゃまったくそんな自覚はないんだがな。 「キョンくーん、朝ごはんできたよー」 学生服に着替えながら、一階の妹に今行くと返事を返した。 この匂い、今日は目玉焼きに醤油だな。快適な一日は快適な朝ごはんからと、かの有名な・・・ええと誰だったか忘れたが、そんな言葉もあるくらいだしな。 * 登校途中に出会った(出会ってしまった)谷口は、一年生らしい女の子にさっそくお得意の(?)ナンパをしていた。 見るからに可愛い女の子ばかりに声をかけては凄い勢いで平手打ちをくらったり、ぷいと無視されたり、まぁ反応は様々なのだが、連敗記録を今日だけで10は更新していそうだ。 「よぅ、キョンじゃねぇか。新学期になってもかわらねぇな」 「それを言うなら、お前のナンパの成果の無さも相変わらずだな」 「甘いぜ…キョン。お前はまだまだ甘い」 「な、なんだよ」 「変化なんてもんはな!自分で望まなきゃならんのだ!!」 谷口が珍しくマトモな事を言っていると感心していると、いつの間にか俺の横からこつぜんと居なくなり--新しい女の子へ声をかけていた。 あいつのああいう前向きな一面を俺は見習うべきなのだろうか。 そうは思いたくないが・・・。 「やぁ、キョン」 「おう、国木田」 「おはよう、どうしたの?校門で突っ立って」 「いや、谷口のヤツがな」 「あぁ、そういえば昨日たまたま駅前で会ったんだけど、その時から張り切ってたよ。今は年下がねらい目だーって言ってたからね」 「成功率0%の更新は今日も続きそうだがな」 「ははっ、まぁそうだね」 その後靴を履き替え、教室で国木田達と談笑していた。しばらくすると項垂れた谷口が教室へと帰ってきた。本人の口から直接聞いたわけではないが、どうやら成果は上がらなかったらしい。下手な鉄砲数打てど当たらず・・・、谷口の為にあるような言葉だと思った。 その後、チャイムギリギリにハルヒが教室に入ってきたのと同時に担任の岡部もやってきて朝のホームルームが始まった。どこか浮ついた空気が流れる新しいクラス。 新学年といっても、一年生の時とそれほど面子が変わった形跡が見られないのはハルヒの仕業なのだろうか、それとも。まぁ、知っている顔が多いという事はとりたてて悪いと言う事でもあるまい。 「そうだ、キョン」 「なんだ?」 国木田が思い出したように言った。 「昨日佐々木さんにも会ったんだ」 「佐々木に?」 「そうそう、彼女凄いね。なんでも学校の選抜大使かなんかに選ばれたらしいよ」 選抜?大使?なんじゃそら。 国木田の後から現れる影 その影はいきなり大きくなったかと思うと 「ちょっと!キョン!話があるからきなさい!」 ぐ、ネクタイ引っ張るのだけはやめてください。 「生徒会対策よ!」 とか言って、何やら紙とペンを持たされた俺達は前回以上にひいひいいいながら機関紙を発行したり。 野球大会ならぬボーリング大会(これなら少人数でも大丈夫だろ)に参戦したり。 相変わらずハルヒのエンジンは新学期早々から一分の迷いも無く全開だった。 度重なるイベントに、たまにはブレーキをかけた方がいいんじゃないかと、俺が愚痴を零すと 横でニヤケ顔の古泉が 「涼宮さんらしくていいじゃないですか」 とか言うのだ。まぁ、確かに。その方がハルヒらしいよな。あいつはそれでいいんだよ、俺は振り回されているくらいで丁度いいのかもしれない。 長門は長門でずーっと読書に没頭してるし、部室専用のエンジェル朝比奈さんは--ああ今日もトテモ素晴らしいです。 最近じゃメイド服以外にもナース服とかチャイナドレスとか、警察の制服とか(どっからそんなもん買ってくるんだ)を見事に着こなしている朝比奈さんには、もはやどんな賞賛を持ってしても値しない気がしてきた。 そんな朝比奈さんを気の毒に思うのだがしかし、これはこれで、この状況を楽しんでいる俺がいるわけで。そういう意味では俺もハルヒの共犯と言わざるを得ないかもしれない。すみません、朝比奈さん。 そんなこんなで、まぁ。 アクセルを踏むどころか、ペダルが壊れて戻らないというか、新学期だろうが何だろうがそんなハルヒはハルヒで健在なわけで。 SOS団の活動もあり、俺達は時間の経つ事すら忘れる様なくらいに忙しい日々を過ごしていた。 いつの間にか、桜が開花したというニュースが流れてから3ヶ月くらいが経っていた。 その間には花粉症がどうのこうのと世間を騒がせているみたいだったが、幸いうちの家族はそれとは無縁な生活を過ごしていた。 しかし、なんでも花粉症というものは人間の食生活や生活習慣と深く関わりがあるらしく、誰にでも発病する可能性があるというニュースを昨日見たばかりだ。 その日の朝食には、お袋がさっそく買ってきたヨーグルトが登場し、俺はこのヨーグルトが家族を守ってくれる救世主になる様に深く願った。たのむぜヨーグルト、なーんてな。 その日の朝も快適だった。 目覚ましのセットしていた時間より1分前に目覚めた。おはようございます、と、背伸びをすると、カレンダーのマル印に目が行った、今日がその日だと思うと、少々の緊張感に襲われた。もっとメランコリーな気分になるかと思いきや、どうやらそうではないらしい。まぁ、ダメで元々だしな。リラックスしていこう。 国木田に協力してもらいながらここまで来たが、どうも俺にとって「テスト」というのは鬼門であり、それは今回も例外ではなく、あまり手応えの良くないテストのデキ次第で合否が決まってしまうわけなのだから、緊張するのも仕方無い事だろう? 1年生から2年生へと無事に進級した俺たちは、いつもながらにお約束の通学路を通り、いつもながらに授業を受け、SOS団では普段と何も変わらぬ非日常を過ごしていた。 何も変わらぬ非日常、などという表現だが。日常ではなく、非日常と書いたのはあながち間違いではない。そりゃそうだろう、なんだってこの猫の額ほどの文芸部室と言う空間には、未来人、宇宙人、超能力者が一同にかいしているのだ。 それに何より、涼宮ハルヒという存在、SOS団をSOS団たらしめている存在だが、ハルヒがいる事により、もっとカオスに。当たり前の事だが、もはやこの空間は日常という言葉には相応しくない空間になっていた。 それはいつかの俺が望んでいたことであり、ここにはむしろ心地よさすら感じられていたのだが。 2年生へと進んだ俺にとって、本日ある転換が訪れようとしていた。 いつかの谷口の言葉に感化された--いや、まさかな。まぁ、確かに。谷口には感謝するべきなのかもしれないけれど。 昼休み、職員室で聞いた岡部の言葉をそのまま復唱しよう。 「よく頑張ったな、キョン。合格だ」 担任まで俺の事をキョンと呼んだのは、この際どうでも良い事としよう。 俺は嬉しさで有頂天だった。有頂天ホテルだ、乱闘だ、乱闘パーティーだ。 いやすまん、少し取り乱した。 これ、手続きは済んでいるからな。と、岡部から渡されたパスポートに写る自分の半開きの目を見て、どうしてこんな写真が採用されたのかと我ながら自分の目を疑っていた。 いやしかし、実感と言うものはすぐには沸かないものである。 甲子園優勝投手、M-1チャンピオン、宝くじに当選した人。まぁ、少々大袈裟な表現かもしれないのだが今の俺の気分に似ているのかもしれない。 甲子園に行ったわけでもないし、漫才ができるわけでもなく、ましてや宝くじなど買ったことはないのだが。 教室に戻り。 今まで協力してくれた国木田に礼を言うと 「頑張ったのはキョンだよ、僕は何もしていないから」 などと、実に歯がゆい返答を返してくれた。 頬がつい緩んでしまう。 ありがとう、国木田。半分はお前のおかげだ、いや。実際半分以上お前のお陰かもしれん。 なんだか、午後の授業が上の空だった。 後の席のハルヒからは 「キョン?なんなのよ、気持ち悪い」といわれてしまったけれど こんな時なんだ、鼻歌の一つでも歌ってもいいだろ。 だから。この事を話さなければなるまい。 まず、何よりハルヒに。 * 「何よ、折り入って話したい事があるって」 ハルヒは、不機嫌なのか照れているのかよくわからない声で俺に質問した。 決意を胸に、俺はその日の放課後、SOS団の活動が長門の本を閉じる音で終わると同時にハルヒを非常階段の下---つまり、誰も来ない静かな場所に呼び出した。 第三者的な目線から見れば、まさにこの状況は、なんとも青春ドラマ的だと思う。 こんな場所で男女が二人きりになるなどという事はつまり、ドラマの中では、すなわちお約束なシーンで、お約束な言葉を言わなければいけないのだろう。 などという事を、考えていた。 「まぁ、大事な話なんだよ。ハルヒ、お前に一番最初に話しておこうと思ったんだ」 俺はハルヒに向かって言う。 「も・・・、もったいつけずに話しなさいよ!!いいわ、特別に聞いてあげる!」 ハルヒは腕を組みながら言った。自身に満ち溢れている表情、ああ、いつものハルヒだ。 そのことに一先ず安堵し、次に俺の胸を落ち着けた。 「あのなハルヒ、俺・・・」 「ちょ、ちょっと待って!」 言いかけた言葉、両手で俺を制するハルヒ、一体なんだと言うのだ、さっきもったいぶらずに話せって言ったじゃないか? 「こ、心の準備が必要じゃない」 そうか? 「そうよ。そ、…それにキョンも落ち着く必要があるんじゃない?」 そうするとハルヒは2回3回大きく深呼吸をして、いいわよと言った。 そうかそうか、そんなに俺の事を心配してくれるか。 「そ、そうよ!団員の事を心配するのは、団長だけの特権なんだからねっ」 相変わらずハルヒはハルヒだ、俺はそんなハルヒの様子に安堵した。 これならば、今の俺の気持ちを打ち明けても大丈夫だろう。 そう、桜も散ってしまい、葉桜へと姿を変えた頃に決意した気持ちを。 16歳から17歳へ移ろうかという時の、思春期というより、青春まっさかりの気持ちを。 どうしてもハルヒに一番に聞いて欲しかった。 聞いて欲しかったんだ。 それは、俺のエゴなのかもしれないけれど。 他の誰でもない 朝比奈さんよりも 長門よりも 古泉は、まぁ入れてやってもいい 国木田は協力してくれたからな、谷口はこの際論外という事で。 誰よりも、ハルヒに。 俺の気持ちを、知っておいて欲しかった。 「あのなハルヒ。俺、留学するんだ」 * 一陣の風が通り過ぎた。 一瞬目が痒くなった様な錯覚に陥り、花粉症になったのではないかという思考を巡らせたが、そんな考えは一瞬のうちに消えてしまった。 えらく、長い時間が過ぎたと思う。 校舎の大時計は7を指していた。 6月も終わりといえど、この時間になると結構暗くなるものだ。 俺の言葉はハルヒに届いただろうか。 二人の間になんとも言えない空気が流れる ハルヒに、笑われるだろうか それとも、祝福してくれるのか どちらにせよ 俺から伝えるべきことは、伝えた。 「いう事って、りゅ・・・、留学?キョン、あんたが?」 ハルヒはただ、驚いていた。 ああ、そうだろう。それが当然の反応なのかもしれない。当たり前といえば当たり前の反応だ。 俺がハルヒの立場だったら間違いなくそうするだろう。 まさか万年成績最下位の座を谷口と争っている俺がこんな事を言うなんてのは、夢にも思わなかっただろうからな。 酔狂と捉えられてもおかしくはないだろう。 そうだ、でも。 俺は留学するんだ、中国にだ。 「ちゅ、中国ってアンタ、あのチャイニーズな国でしょ?海を越えた向こうにある国じゃない?」 ああ、そうだぞ。 ニーハオ、シェイシェイ。中国語の勉強も少し始めたんだ、向こうに着いてから大変だからな。 「そんな…、そんな事って…」 ハルヒは下を向いて何か呟いている。 俺にはそれが聞こえないが。 ・・・、喜んでは、くれない、・・・か。 やや空いて 「それでな、SOS団の事なんだが…」 一番大切な事を話そうと思った、その時 「お…、めでとう!!」 「へ?あ、あぁ。ありがとう」 ハルヒは今日一番の大きな声で祝福してくれた。 俺は一瞬の事で変な声しか出せなかったのだが 次の瞬間ハルヒはくるりと反転し、全速力で駆けて行ってしまった 俺は、ただその光景を後から見ているだけだった。 俺は追えなかった。 どうしてだろう。 嬉しい反面、寂しいという気持ちになった。 ずっと思っていた事なのに。 言うのが遅くなったのは素直に謝ろう、すまなかった。 新学期が始まって、募集を開始した留学の事。 それに目が留まり、興味を惹かれ、応募した事。 国木田に勉強をみてもらっていた事。 決してダマそうと思っていたワケじゃないんだが、ギリギリまで黙っていてハルヒを少し驚かせたかったという思いもあった。 結果的に、俺の目論見は成功に終わった。 ハルヒは、 泣いていたけれど。 * マナーモードにしていたケータイに着信 ’古泉一樹’と表示され、なんとまぁ、通話する前から大筋の用件がわかるタイミングで電話をかけてきたものだと思った。 『もしもし--マッガーレこと古泉一樹です、いっちゃんってよんd』 四番じゃなくて、呼ばん。なんだよ、今忙しいんだよ 『それはご愁傷様です、実は先程ここ半年で一番巨大な閉鎖空間が発生したのですが。何か心当たりは?』 ・・・ 『あるのですね』 まだ何も言ってねぇだろ 『そうでした、今僕も新川の車で向かっている所なのですが』 それがどうかしたのか 『前にも言いましたが、閉鎖空間は涼宮さんの気持ち一つで発生するものです。あなたにもご理解いただけているかとは存じますが』 あぁ、嫌になるほど 『そうですか、それならば話は簡単です』 ・・・ 『SOS団の活動の後、二人で非常階段に残った涼宮さんと何があったのか、僕は知りませんが』 なんだよ、俺が悪いと言うのか 『責任論を押し付けるつもりはありません、しかし、二人の間に何か誤解が発生しているならばまずそれを正すことが大切なのでは?おっと、現場に着きました、それでは、生きていたらまた会いましょう』 ガチャ……・・・ツー…ツー… 誤解ってなんだよ。 俺は、ハルヒに喜んでもらいたくて。 なのに、あいつ。 何を泣いてるんだよ 電話が来る前から学校を手当たり次第探しているが、ハルヒの姿は見当たらない。 ケータイも出ない、あいつの行きそうな場所を考えたが多すぎて見当もつかない。 ---いや、心当たりはあった。 走り出した。 そりゃもう、生まれてから今まで一番早かったんじゃないかと思うくらいに。 * いつかこんな話をした事があった。 それが一体、いつなのかは記憶が定かではないが。 「ねぇキョン」 「なんだ?」 「あたしね、運命とか信じないの」 「どうしてだ?」 「だって、そんなチンケなものに頼っているなんて、なんだか恥ずかしくない?私の人生は私が切り開くのよ」 「ははっ、ハルヒらしいな」 「あんたはどうなのよ」 「うーん、どうだろうな…」 「キョン?」 「少なくとも、俺はハルヒや長門、朝比奈さん、古泉達と一緒にSOS団に居れて良かったとおもうよ」 「少なくともって何よ」 「まぁ聞けよ」 「仕方ないわね、聞いてあげるわ」 「お前が居てな、横で長門が本を読んでるんだよ。そんで古泉が俺にオセロでボロ負けしてるんだ。それで俺は朝比奈さんのお茶を飲みながら、ああ、今日も良い一日だなって思うわけだ」 「・・・」 「だから、ハルヒには感謝してる」 「なっ・・・!」 「どうした?」 「な・・・、なんでもないわよ・・・」 「そうか?」 「そ、そうよ!」 「うん。だから、これはひょっとしたら運命なんじゃないか、ってな。たまにそう思うんだ」 「・・・ばか」 「へ?」 「あー・・・、もう。バカキョン」 「ひ、人が真剣にだな」 「・・・ちょっと、カッコいいじゃない・・・」 「ん、何か言ったか?」 「な、何も言ってないわよっ!!」 * いつかの公園。 いつかの記憶に、ハルヒの声が重なる。 「やっぱり、ここに居たか」 ぜぇぜぇ、と肩で息をしながら。 ブランコに乗ってる黄色いカチューシャに声をかけた。 声に反応したのか、少し肩が上がる。 俺は息を整えようと、深呼吸をした。 気がつくと、もう日は沈んでいた。 「なによ」 振り向いたハルヒの目は充血していた。 ・・・、泣かせてしまったのだろう、俺が。 色々な思考が巡ったが 一番にすべき事があった。 「すまん、ハルヒ!」 俺は全力で謝った。 かっこ悪いかもしれないけれど、そりゃもう凄い勢いで頭を下げた。 「お前に今まで一言も相談せずに黙っていてすまなかった!お前に喜んで欲しくて、中国語の選考だってなんとか通過して。それで!いざ留学が決まって、俺、うれしくて。でも、お前の気持ちなんか全然考えていなくて!すまなかった!俺、自分勝手だよな!お前の事ちゃんと考えられなかった!ほんと、ごめん!」 口を開いたら、今まで溜め込んでいた気持ちとか想いが溢れてきた。 なんて俺はバカな事をしちまったのだろうかと、今更ながらに思う。 なんで一言くらいハルヒに相談をもちかけなかったのか なんで、どうして。 ハルヒを探している途中に、何度も自問自答した。 本当は、見返してやりたかったのかもしれない。 俺だってやればできるんだぞという所を見せたかったのかもしれない。 男って、そういう生き物だろ? 特に、す・・・、す・・・好き・・・な、女の子の前ではさ。 「なによ・・・、バカキョン・・・」 ハルヒも我慢していたものが溢れたのだろうか その大きな瞳に涙をたくさん貯めていた 「バカ・・・、キョン・・・。あんた、よかったじゃない・・・私、嬉しかった。でも、キョンが私の前から居なくなるって考えたら恐くなって・・・、それで逃げたの・・・、ごめんね、怒った・・・?あたし、キョンが居なくなったらまた中学の時みたいに一人ぼっちになっちゃうかと思って…恐くなった。恐くなったの」 肩が震える。 「お前は一人なんかじゃない!!」 叫んだ。 「お前には、長門だって朝比奈さんだって、古泉だって、鶴屋さんだって、国木田だって谷口だっているじゃないか!」 「キョンじゃなきゃだめなの!キョンじゃなきゃ・・・だめなの・・・」 「・・・っ!!」 あぁ、やっぱり俺は大ばか者らしい。 何が格好をつけたかっただ、ハルヒの一番そばに居た癖にハルヒの事を一番わかっていなかったのは俺じゃないか。 「ハルヒ、・・・すまん」 「キョン・・・キョン」 現実に女の子を、抱きしめた事なんてなかった。夢の中の出来事なんてのはノーカウントだからな。 だから、どうしていいのかわからなかったけれど、ただ、なんとなく知ってはいたんだ。 いつかドラマで見たみたいに、ハルヒの背中にそっと手を添えた。 胸の中で、ハルヒの温もりを実感した。 普段は存在感の塊みたいな感じなのに、こうしてみると意外と小さいんだな 「バカ・・・、あんたが大きいからよ」 涙まじりの声で、上手く聞き取れない。 すまん。 「ねぇ、キョン」 なんだ 「あたしね」 ああ 「キョンの事」 うん 「好き」 そりゃ奇遇だな 「俺もハルヒの事が好きだ。世界で一番、な」 「・・・バカ・・・、大好き・・・」 * 「わざわざ見送りなんて来なくてもいいのに」 俺はお袋と妹以外の4人に向かって言った。 「そういうわけにはいかないでしょ?あんたにはSOS団中国特使としての重責があるんだからねっ!!」 ハルヒ。 元気でな 「あ、あんたもね」 「あ・・・あのぅ・・・キョンくん!がんばってくださいねっ!!」 両腕でガッツポーズを取った朝比奈さん はい、帰ってきた時は朝比奈さんのお茶、楽しみにしてます。 あ、でも、もう卒業・・・ 「うふっ、大丈夫ですよ♪」 あれれ? 目の前がピンク色に・・・ 「ちょっと、キョン?」 はっ、いかんいかん。 「僕も微力ながらサポートさせていただきますよ、中国には親しい友人が居ましてね、その人物・・・」 謹んでお断りする 「それは残念です」 「・・・」 長門、行ってくるよ 「そう」 もしかして最初から知っていたのか? 「・・・教えない」 そうか、俺の居ない間、ハルヒをよろしく頼む。この通りだ 「了解した」 それじゃ、行ってくるよ。 「キョンくーん、お土産まってるよー」 お兄ちゃんって呼びなさい! お袋、行ってきます。 「立派になって帰ってくるんだよ」 ああ、病気なんかするなよ。 飛行機がハイジャックされないかと最後まで心配してくれたハルヒ。 飛行機が墜落しないかと最後まで心配してくれたハルヒ。 愛しい人。 愛すべき人。 ちょっと待っててくれよな、一年なんて、あっという間に過ぎるさ。 * 下宿先で、ハルヒそっくりの人物と一年間を過ごしたのは、また別の話になる。
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第四章 これが、ハルヒの夢。 俺の目の前には、360°不毛の大地が広がっている。 上には、全てを焼き尽くすような太陽。あいつの夢にしては、何と殺風景なのだろうか。 そういえば、長門は、「夢の中は、涼宮ハルヒの思念を反映し易い状況である。」とか言ってたな。 つまり、ここではハルヒの願い事は、ほぼ全て叶うという事だ。 この灼熱の空間もあいつが生み出したのか?閉鎖空間よりタチが悪い。 神人は出ないだろうが、長門とは違う、ハルヒの想像通りの宇宙人が出てもおかしくはないな。 ウダウダ考えても仕方ないので、俺は歩き出す。とりあえず、ハルヒを探さねば……… だが、何処へ行けば良いのか分からない。目的のハルヒの位置も分からなければ、入口も出口も無い。 周りは全て同じような光景。 あてもなく、しばらく歩く。 「暑い、暑すぎる。」 独り言が勝手に出てくる俺は末期なのだろう。ほら、蜃気楼で周りが歪んで見える。 おや、そろそろ、お迎えが来たようだ。上から天使が降ってくる。 テ●ドンもびっくりのもの凄いスピードで。 ………降ってくる? 「どいてどいてー!!」 そんな事言われても、避けれる訳が無い。 「ぎゃっ!!」 痛ってーなこの野郎。 「ひっ!?キョン?」 やっと会えた。 「よぉ、ハルヒ。」 「ち、近づくなー!!」 ハルヒはふらふらと逃げ出す。 「待てよ!!」 俺は力を振り絞って、ハルヒにタックルをする。 「う゛うぅぅぅ。」 ハルヒは地面に顔をぶつけたようで、かなり痛がってた。 「悪い。大丈夫か?」 「大丈夫な訳無いでしょ!!バカキョン!!」 逃げ出すお前が悪い。 「だって、それは…」 それは何だ? 「あたしがあんたを殺そうとしたから。」 バツが悪そうに、ハルヒはポツリと漏らす。 「ごめん。」 「全く持ってお前らしくない言葉だな。」 「本当にごめん。」 「ごめんは禁止だ。」 「何であたしがあんたに従わないといけないのよ。」 申し訳ないと思うなら黙ってて欲しい。 「分かったわよ!!ところで、ここ何処?あたしがどうしてこんな場所にいるの?」 「夢だよ。夢。」 まさか、長門が俺とハルヒの脳内をリンクした事を俺が説明出来る訳ない。 「ふーん。だったら現実世界は大変なのね。夢が覚めたら、殺人未遂で豚箱入りか………全て失っちゃった。」 「大丈夫だ。多分、俺もお前も無事だ。」 「でも、明日からあんたに会うの辛いわ。」 「俺は何にも思っちゃいないよ。」 「嘘よ。嘘でしょ!!」 激しい口調でハルヒは続けて言う。 「また、あたしに殺されかけたらどうするの? もう、嫌だよ………こんな辛いの。」 ハルヒの瞳は潤んでいた。泣いているのだろうか。 「な、泣いてない!!」 指摘した途端、上着の袖で顔を拭う。やっぱり、泣いているな? 「煩い!!」 分かった。分かったから落ち着け。 「じゃあ、腕貸せ。」 ハルヒは俺の腕を勝手に使い、枕にしやがった。 「少し、休む。」 下が凸凹な地面なだけに、少し痛い。 「少し、落ち着いてきたかな。」 それは、よう御座いました。 「少し冷静になって考えたの。」 「何を?」 「何にせよ、これ以上キョンに迷惑を掛けたくないの。」 今まで、数々の悪行を重ねた奴が何を言う。 「だからさ………」 「あぁ。」 「あたし、死ぬわ。」 「は!?」 その時の俺は相当マヌケ面だったらしい。 ハルヒは急に吹き出した。 あくまで、表面上。目は笑っていない。なんか腹が立った。 おい、ハルヒ。 「ん?何、キョ…」 ハルヒが言葉を詰まらせたのは、俺がこいつの胸倉を掴んだからだ。 「何言っているのか分かっているのか?」 「……当たり前よ。」 「それで誰が喜ぶ?」 「………」 「お前が死んじまったら、何にもなんねぇだろ!!」 「で、でも……」 「俺達には、お前が必要なんだ。」 そうだろう?朝比奈さんや長門、阪中や谷口と国木田のアホコンビとか、鶴屋さんに森さんや新川さん。 その中に古泉も入れてやっても良い。 みんながお前を必要としてるんだ。 そして……… 「今現在、俺はお前が心から愛おしい。」 俺はハルヒを抱いた。力強く、精一杯抱いた。 ハルヒの顔は、見えない。いや、見れなかった。恥ずかし過ぎる。こんなこと。 「やっと、あたしの気持ちに気付いてくれたのね。」 「……カマかけやがったな?」 「バレたか。でも、こうしてあんたを急かさないと、いつまで経っても中途半端なままよ。どうせ夢だし。」 恥ずかしい。 「嬉しい。本当に。」 ハルヒの手が俺の首にかかる。 「ねぇ気付いてた?あたし、あんたに沢山アプローチかけてたの。」 「知らないな。」 「………バカ。」 ハルヒは少し膨れた。その顔も可愛いぞ。 「変な褒め言葉ね。」 変で悪いな。 「あたしね…」 何だ? 「キョンが好き、でも、あんたはいつも振り向いてくれなかった。」 そんなつもりは無かったのだが。 「恋心が憎悪に変わっちゃったのよ。だから、あんなことした。多分。 苦しかったわ。毎日が地獄だった。やっぱり、恋の病は重い精神病ね。」 これがハルヒなりの解釈なのだろう。 こいつは、呪いのナイフの事なんか覚えていないのだ。 それはあくまで、表面上だけだが。 「夢なら覚めないで欲しいな。」 「大丈夫、俺が覚えてるさ。」 「本当?」 「本当だ。お前が願うなら、何でも出来る。」 「信じるからね。」 …………!? 「ハルヒ。」 「ん、何?」 「疲れたろ。」 「まあね、精神的にボロボロって感じよ。」 「お前はよく頑張ったよ。 幾日も悪魔の囁きに耐え、自分の感情をよく抑えられたもんだ。」 「でも、結局負けちゃった。」 「十分さ。だがこれで、お前の重荷も晴れた。だから、今は少し休め。」 「あんたは?」 「俺か?俺はまだ役目があるみたいだ。」 「……大変なのね。」 これが大変で済むのなら、まだ楽な方だ。 「少しだけ、行ってくる。」 「待って!!」 何だ?急にハルヒが呼び止める。 「もし、あんたがこの夢を覚えてたら、あたしに言って欲しい言葉があるの。」 プロポーズの言葉か? あまり、恥ずかしいのは言いたくないぞ。 「似たような物よ。」 そう言いながら、ハルヒは俺に、 ある『愛言葉』を耳打ちをして、送り出した。 「行ってらっしゃい!!」 「ああ、またな。」 「あんたが無事で帰って来るって、ずっと信じるから。」 しばらく歩く。 さて、この位離れれば良いか。 なあ、朝倉さん。 「よく気付いたわね。わたしがいる事に。」 「よく考えれば、出来過ぎた話だよ。」 ハルヒの創造力が、ここまで忠実に具現化する事は、今までに無かった。 ましてや、人々を殺人に巻き込んだなんておかしすぎる。 考えられるのは一つ。 俺の存在を危険視した者がハルヒを洗脳し、殺害を企てた。 それが、お前ら情報統合思念体の急進派だった。 朝倉は表情ひとつ変えずに微笑んでいる。 「そこまで、思索出来のは上出来ね。 だけど、あなたはまだ、この話の真実を知らないみたい。」 真実? 「そう、真実。」 知りたい。ちょっと怖いけど。 「それが、あなたにとって、破滅的な答えだとしても?」 そんなに俺に都合の悪い答えなのか? 「………あら?あと40分位でこの夢が消えちゃうわよ。」 何だと!?長門は? 「ここ」 「僕もいますよ。」 「長門!!どういう事だ?」 「僕はスルーですか。」 「朝倉涼子から、あなたを助ける為、古泉一樹と来た。 だから、涼宮ハルヒを抑える役が居なくなっただけ。」 「キョン君。どういう事か解ったわね。」 「知らん。」 「とりあえず、あなただけは逃げて下さい。」 「掴まって。」 古泉、お前は? 「一人で戦います。」 大丈夫なのか? 「勿論、長門さんがあなたを送ってここに帰って来るまでです。 安心して下さい。それ位は持ちこたえますよ。 ここは涼宮さんの夢。閉鎖空間に似て非なる物です。」 「させない。」 一瞬で周りが宇宙空間の様に変わった。 「わたしの情報制御下に入ったわ。つまり、わたしを倒さないと、逃げれないよ。」 「…まずいですね。僕の力が出せません。」 「わたしがやる。あなたは彼を守って。」 「分かりました。」 俺は? 「黙ってて。」 冷徹な表情でそう言い捨て、長門は宙に浮いた。 朝倉も一緒に浮く。 「さぁ、始めましょう。」 朝倉が言い終わる前に、長門の手から、紫色の放射物が無数に出てきた。 朝倉も掌から青いビームのようなものが沢山出た。 2つは打ち消し合う。 同時に両者が接近し、肉弾戦を繰り広げる。 長門の手刀が朝倉の脇腹に入り、朝倉の裏拳が長門の顔面にヒットする。 怯んだ長門に、朝倉は容赦なく追い討ちをかけ、最後に腹部に決まった蹴りで、吹っ飛ぶ。 「長門!!」 「…………大丈夫。」 長門は何か唱え、朝倉の横の空間が歪む。 歪みの中から、コンクリートの塊みたいな物が、朝倉を殴打する。 「チッ」 また長門は何かを唱えた。 すると、空間が歪む。 気付くとそこは、見慣れた場所だった。 「ここは?」 駅前。 ただし、空は灰色だった。 「閉鎖空間に極力似せた空間を造った。これであなたの力も出せる。」 「感謝しますよ。長門さん。」 古泉は赤い玉を掌に浮かべた。 「いけますよ。いつもの倍の力が出せそうです。」 古泉は赤い玉に変わり、朝倉に近づいた。 「………危ない。」 古泉の周りが爆発した。 「ふぅ…間一髪でしたよ。」 古泉はバリアに包まれていた。多分、長門のおかげだろう。 「流石に2対1は辛いわね。少々本気を出そうかな。 緊急コード230………アクセス……涼宮ハルヒ………ダウンロード開始」 「今のうちに!!」 長門と古泉は突撃を仕掛ける。 大きな赤い玉と紫色の光線が朝倉を襲う。 朝倉は赤い玉を避け、紫色の光線を足蹴でかき消した。 赤い玉は急旋回し、再び朝倉を襲う。 「ダウンロード完了。」 瞬時に古泉が吹き飛ばされる。 「グッ!!」 何があった? 「………解りません。」 「わたしは涼宮さんのデータを盗ったのよ。」 じゃあ、お前は世界を改変することも出来たりするのか? 「そこまでは収集出来なかった。メモリ不足ってやつよ。だけど、あなた達に勝つ能力を身に付けたわ。」 何を言っている。お前は、ハルヒより強いだろ?あいつから学ぶ必要性はあるのか? 「勝負を決める要素は、スピード・感・経験の三つ。 だけど、わたしはこの三つが……特に、感と経験が不足してるの。 わたし達インターフェースは、元々戦闘目的で作られた訳ではなく、あくまで監視目的。 スピードはあるけども、戦闘の経験なんて、プログラミングされていないの。 だから、わたしは涼宮さんから感と経験、つまり瞬発的な情報判断能力を貰ったの。」 「明らかに朝倉涼子は強くなった。わたしだけでは彼女には勝てない。」 マジか!? 「長門さん。僕の能力を使って下さい。 神人狩りで涼宮さんの行動パターンは、大体掴めます。」 その手があったか。 「分かった。」 「へぇ、それは厄介ね。一応、抵抗しようかな?」 「40.17秒程かかる。それまで持ちこたえて。緊急コード801startrun………」 長門は、素早く呪文を唱える。 「分かりました。」 「10秒かからないで倒せるわね。」 「ハッタリは、よしていただきたいものですね。」 「ハッタリかどうか、直ぐに分かるわ。」 そう言った瞬間、朝倉は消えた。 「どこへッ!?」 「後ろよ。」 !!! 「次はあなたの番」 「はやく……に……げて……下……さい」 「計画の為、ここで死んでもらうわ。」 朝倉は地面に手をつける。 すると、コンクリートの地面は豆腐のように削り取られる。 朝倉が削り取った塊は、だんだんと形を変える。 「見覚えあるでしょ?」 アーミーナイフをちらつかせ、朝倉はニヤリと笑う。 忘れる訳がない。それで俺は幾度と殺されかけたからな。 「それは、良かったわ。でも、サヨナラね。」 朝倉は、ナイフを投げた。 「ひぃっ!!」 なんとマヌケな声だろうか。谷口に聞かれたら、バカにされる。 そういや谷口、今どうしてるかな? 実際、そんな事考える余裕なんぞなかった。 尻餅をつき、なんとかナイフをかわす。 しかし朝倉は、俺の頭上で、拳を振り落とそうとしている。 「死になs……!?」 朝倉が吹っ飛んだ。 「ハア……ハア…………まだだッ!!」 古泉!? 「まだ生きてたの?先に殺しましょうか。」 朝倉の手が、槍の様になる。 「やめろ!!!」 俺は、朝倉に殴りかかるが、 「邪魔よ。」 朝倉の蹴りで、俺は近くの木に叩きつけられる。 背中と胸が凄く痛い。なんて様だ。カッコ悪いな……俺。 「その腕、邪魔ね。」 朝倉の槍になった手が伸びる。 「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」 「あはっ♪」 俺の位置からはよく見えないが、多分朝倉は、古泉の肩に槍を突き刺した。 古泉の耳をつんざく悲痛な叫び声。 思わず、目を背ける。 呼吸が荒くなる。 脈拍も早い。 苦しい。 恐い。 「次は長門さんね。」 「遅くなった。ごめんなさい。」 「さぁ、早くわたしを倒さないと、彼が死ぬわよ?」 「知ってる。」 2人は、激突した。俺も目で追うのに精一杯だ。 「お久しぶりです。」 「え?」 えらく上品なお嬢様がそこにいた。 第五章へ
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角膜に映しだされている光景を、俺は夢だと思いたかった ハルヒと朝比奈さんが …… 血まみれで伏しているというのは 一体どういう冗談だ…? 気付くと俺は二人の前にいた 考えるよりも先に体が動いてしまったらしい 「大丈夫かよ!?おい!?!しっかりしろ!!!!!」 「キョ…キョン…!!みくるちゃんが…!!みくるちゃんがあ!!!!」 「しゃべるな!!お前だってケガしてんだろ!!?」 「違う…!!あたしはケガなんてしてない!!…みくるちゃんが…あたしを…あたしをかばって…!!!!」 …… え? じゃあ、ハルヒの服にべったり付いているこの血は何だ? …… 全部…朝比奈さんの血…… …!? 「う…ぅ、ぅぅ……!」 悲痛な様で喘ぐ…彼女の姿がそこにあった 「朝比奈さん!!!!しっかりしてください!!!!…朝比奈さん!!!!」 「ょ…ょかった…すず…涼宮さんがぁぶ、無事で…!」 「朝比奈さん!!?」 「わた…し…やくにた…てたかな…ぁ…ぁ…!」 理解した 彼女は秒単位という時間の中で自らハルヒの盾となった あのとき奴の一番そばにいた…彼女は 『ねえキョン君…私って本当にみんなの役に立ってるのかな…?』 つい先ほどの彼女の言葉が頭でこだまする 朝比奈さん…あなたは…そこまで思い悩んでいたんですか…!? 「あ…あたしのせいだ…!!あたしがボーっとして動こうとしなかったからみくるちゃんが…!! あたしのせい…あたしのせいでみくるちゃんが…っ!!いやあああああああああああああ!!!!」 頭を抱え絶叫しだすハルヒ 「よせ!!ハル」 言いかけてやめた。ふと、気付いたからだ…俺の横へと立っている人物の存在に。 「あなたは涼宮ハルヒを連れ、ただちにこの場を立ち去るべき。周囲の急激な悪化により 彼女の精神は極限状態。これ以上の錯乱は彼女の自我そのものを崩壊させる。 神としての記憶を覚醒しかねない極めて危険な状況。」 長門… …… …!! 今の俺に長門の声は届かなかった 「長門…!!お前…!!」 気でも狂ったのか、俺は長門に掴みかかっていた。 「…銃で必死に迎撃してくれてた古泉と違って…お前は一体何をしていた!? お前なら…!!今の攻撃からみんなを守ることなど造作もなかったはずだろう!? …なぜそれをしなかった!?答えろよ長門ッ!!!!答え」 頬に鈍い痛みが走った 俺は古泉に殴られた 「てめえ…!何しやがる!?」 「あなたこそ…こんなときに何をやってるんです!?涼宮さんを連れてただちに逃げろと… 今長門さんに言われたばかりでしょう!?どうしてそれに従おうとしないんです!?」 「お前…!!!今にも死にそうな朝比奈さんは無視か!?それに長門は…!」 「おいおいおい、九曜さん。ちょっとやりすぎじゃ?死人がでそうな状況なんだが。」 「…関係のない人に重傷を負わせてしまったぶん多少の罪悪感はありますが…ま、仕方ないですね。 ある意味当然の報いですよ。なんせ、私たちは問答無用で先ほど殺られそうになったわけですから。」 「-----------身の程を-------------------------------知るべき」 炎上した隣家の方角から歩いてくる… 不快な言葉を発する三人組が… …… そして、俺はこいつらの顔を知っている 未来人藤原 超能力者橘京子 天蓋領域周防九曜 …藤原。やっぱりてめえらの仕業だったわけか…! 「…長門さんと同程度か、それ以上の力を有する周防九曜…。天蓋領域という名の化け物に 彼女は…長門さんは情報操作をかけられ、一切の身動きがとれない状態でした。」 !! 「それでも彼女は抑圧されてもなお、力を行使し被害を最小限にとどめました… 朝比奈さんを助けることが叶わなかったのは…彼女の力が不完全だったためです…。 もちろん、僕の力量不足でもありますがね…。逆に、その不完全な力さえもなければ今頃僕も、 そしてあなたもタダではいられなかったでしょう。最悪の場合死んでいたかもしれません。」 …ッ! …よくよく考えてみれば、長門や古泉が死に物狂いで頑張ってる中、俺は何をしていた?? 自分を守ることで精一杯だったじゃないか…!?いくらハルヒと朝比奈さんとに 距離があったとはいえ…、、、、そんな俺に、長門を批判できる資格なんかない…!!! 「長門…俺はお前にひどいことを…!本当に申し訳ない!この通りだ…!」 俺は長門に…誠意をもって謝罪した。 「…私が周防九曜に対し後れを取ったのは事実。だから、あなたが謝ることは何一つない。」 「しかし…!」 「私のことはどうでもいい。一刻も早く涼宮ハルヒを連れてここから立ち去るべき。」 …さっきも言われたな。頭に血が上ってたが、確かにそんな覚えがある。 …… ああ、わかってるさ。そうせねばならないほど窮した事態だってことは だが 「朝比奈さんはどうすんだ!!?重体の彼女を放置して、俺とハルヒだけ逃げろってのか!!?」 「…朝比奈みくるは、これから私が全力を尽くして治療にあたる。」 「!確かにお前にならそれが可能だな…だが、あいつらの相手はどうすんだ!? お前が治療に専念する間……、、!!まさか古泉一人に戦わせるつもりか!?無茶だ…! 相手にはあの天蓋領域だって」 「…幸か不幸か、涼宮さんの重度の乱心により…この場は閉鎖空間と化しつつあります。 となれば、僕も超能力者として…本来の力を存分に行使できるようになります。」 古泉… 「わかってんのか!?それでも1対3には変わりねーんだぞ!?」 「…涼宮さんにもしものことがあれば世界は終わりです。あなたもそれは十分承知のはず。」 「しかし…!」 「…以前ファミレスにてみんなと誓ったではありませんか。我々は協力して…みんなで涼宮さんを守る!…とね。」 …こいつは、自分の死を覚悟しているのか?仲間を守るために… …… 長門も同様にそうだろう。 朝比奈さんにしてもそうだ、命を擲ってでもハルヒを守ろうとした。 みんな覚悟を見せつけている 絶対に3人の覚悟は無駄にできない!!!!なら、俺にできることは一つ 「ハルヒ!来い!」 強引にでもハルヒの手を握り、連れて行こうとする俺。 「嫌!!放してよ!!!!放して!!!!みくるちゃんが!!!!! みくるちゃんがああああああああああああッ!!!!!!」 ハルヒもハルヒで相当つらいんだろう…気持ちはわかる。だが、今は我慢するんだ…! みんなの意志を…覚悟を…どうか酌みとってやってくれ!!! そして…みんな… どうか死なないでくれ!!!! 俺は3人に背を向け、ハルヒとともに走りだした。 「…はん、ようやくお喋りは終了か。じゃ、とっととそこをどいてもらおうか。計画に支障が出る。」 「その先にいるターゲットに私たちは用があるんで。早くしないと逃げられちゃいますしね。 それに、閉鎖空間と化したこの場で猛威を揮えるのは…決してあなただけではないってことも どうかお忘れずに。だって、私も同様に超能力者なんですから。」 「それくらい承知の上です。それでも、あなた方が何を言おうと僕はここを通しません…!」 「古泉一樹…朝比奈みくるの治癒がもう少しで終わる。 そのときまで、どうか耐えしのいでほしい。終わり次第、私も参戦させていただく。」 「それは頼もしいですね。ぜひともお願いします。」 …… 「一応忠告はしてあげたんですけど。じゃあ、仕方ありませんね。」 「結局こうなるのか。面倒なヤツらだ…。」 「---------邪魔」 「「はぁ…はぁ…はあ!」」 一体どれくらい走ったのだろうか…、俺たちはすでに息をきらしてしまっている。 行く宛てもなく…ただただ走り続けた。藤原たちから離れることだけを考え…ただただ走り続けた。 轟音爆音が鳴り響く 火の手が上がっている …俺たちが先ほどまでいた場所からだ。 …… ところで、俺にはさっきから妙な違和感がある。市街地を走りぬけていて気付いたのだが… 人一人歩いていない、というのはどういうわけだ?確かに、時刻は夜の10時をとうに過ぎてしまっている。 ゆえに、人通りが少ないのは理解できる。だが、人一人見当たらないのはどう考えたっておかしい。 …これも長門、ないしは周防九曜の情報操作に起因したものなのだろうか? それともさっき古泉が言っていたように、この世界が閉鎖空間と化しつつあるから…? っ! ふとハルヒの手が放れる。酷く塞ぎ込み、その場にしゃがみこむハルヒ。 「もう…あたし…、走れない…!」 「…そうだな…随分走ったし、ちょっと休憩するか。」 「…ねえキョン」 「何だ?」 「そもそもさ…何であたしたちこんな必死になって走ってんの…??」 「……」 「さっきまでさぁ…あたしたちお菓子とか食べながらみんなで騒いでたじゃないのよぉ…!? あれは一体何だったの!!?夢!?どうして…こんなことになってるの…!!?」 「……ハルヒ…」 「この状況は一体何よ!??家が吹き飛ぶわ、破片が飛び交うわ…そのせいでみくるちゃんが…!!」 …ハルヒの疲弊は、どうやら単なる息切れによるものだけではないらしい。 「ち、違う…!!あたし…あたしのせいでみくるちゃんが!!みくるちゃんを助けないと!!」 「落ち着け!!落ち着くんだハルヒ!!気持ちはわかる!!わかるから…どうか落ち着いてくれ!!」 「嫌ぁ…!放して…!みくるちゃんが…みくるちゃんがぁ…!!」 ……、 最悪の状況と言っていい。俺は…どうすりゃいいんだ? 極限状態なまでに錯乱した…今のハルヒに一体どんな声が届くってんだ…?仮にハルヒの立場だったとして、 今頃俺はどうしていただろうか?発狂していたのだろうか?だとして、そんな半狂乱な俺を… 俺はどうすれば救ってやれる??何をすれば救ってやれる!? その瞬間だった 「あ…、ああっ…、……」 卒倒するハルヒ …… …ハル…ヒ? 「ハルヒ!?おいしっかりしろ!!!!大丈夫か!!?ハル」 !? 何だこの揺れは…?地震…??規模こそ小さいが、一昨日見た夢を思い出さずにはいられなかった… …… …冗談がすぎるぜ…世界が滅ぶのは12月23日の段取りだったはず… 今日はまだ12月1日だぞ…!?今日で…終わるのか?何もかも…!? 「今のハルヒの失神は…、まさか!覚醒しちまったのか!?」 …何なんだこの展開は…??ここまで頑張ってきたのに…頑張ってきたってのに、 全部水の泡で終わるのか?そんな…そんなこと…ッ! しかし いくら威勢を張ったところで、もはやどうしようもないことには変わりない。 ここまで【絶望的】という言葉が似つかわしい状況もない。 …… とりあえず、地震は収まったようだが… 俺が放心状態であることに、変わりはなかった… 「た、大変!!涼宮さん…その様子だと、神としての記憶を取り戻してしまったんですね…!」 はて、この場には俺とハルヒしかいないはず。ついに俺も幻聴が聞こえるなまでに廃物と化してしまったか。 「ふう…あなた達のこと探したんですよ…って、キョン君聞こえてますか…?大丈夫ですか!?」 !! 「あ、あなたは…」 「よかった…あなたまでおかしくなってたら、それこそ終わりだったわ…!」 「朝比奈さん!!」 いつしかお会いした大人朝比奈さんが…俺の目の前に立っている。 光明が射すとはこういうことを言うのだろうか? 例えるならば WW2独ソ戦にて、モスクワ陥落を【冬将軍到来】により間一髪のところで防いだソ連。 池田屋事件にて、維新志士らにによる窮地を別動隊の【土方歳三ら】に助けられた近藤勇。 日露戦争にて、物資・国力ともに限界だったところを【敵国の革命運動】により難を逃れた日本。 関ヶ原の合戦にて、数による劣勢を【西軍小早川秀明の裏切り】により勝敗を決した徳川家康。 元寇にて、大陸独自の兵器や戦法で撹乱する元軍を【神風(暴風雨)】により撃退した鎌倉幕府。 キューバ危機にて、米ソによる核戦争を【ケネディ大統領の働き】で回避した当時の世界。 ワールシュタットの戦いにて、【オゴタイ=ハンの急死】により領土を守り切った全ヨーロッパ諸国。 2・26事件にて、不運にも義弟の【松尾伝蔵陸軍大佐の身代わり】で暗殺を逃れた岡田啓介首相。 1940年にて、【杉原千畝リトアニア領事によるビザ発行】でナチスによる迫害から逃れたユダヤ人。 クリミア戦争にて、【フローレンス・ナイチンゲールの必死の看護】により命を救われた負傷兵たち。 …挙げればキリがない。 それくらい、絶望的渦中にある今の俺からすれば…彼女の存在は例文の【】に値する。 「朝比奈さん…俺は…。俺は!どうすればいいんですか!!?」 彼女が今ここにいるということは、間違いなく何かしらの理由があるはず。そうでもなければ、 朝比奈さん小の上司でもある彼女が…自らこの時代へとやって来ることなどありえない。 だとすれば、彼女は知っているはずだ…俺が今何をすべきなのかを…! 「落ち着いてキョン君!まずは状況をしっかりと把握しましょう。それによってあなたの成すべき事も… 決まってくるわ。だから、涼宮さんがこうして倒れるまでの間一体何があったのか…私に話してほしいの。」 話す内容によって、彼女が俺に与える助言もまた違ってくるのだろうか。 俺は…事の一部始終を洗いざらい打ち明けた。 …… 「なるほど…つまり、あなた達は藤原君たちに追われていたのね?」 「はい…そのせいでこの時代に来ていた朝比奈さんが…重傷を負ってしまって…っ!!」 「…それは。さぞかし大変だったのでしょうね。」 「なぜ驚かないんです!?彼女が消えてしまえば、大人であるあなたも消えてしまうんですよ!?」 「そのくらい心得てるわ。でもね…逆に言えば、今大人である私が この場にいる…生きてるってことは、つまり彼女はまだ死んでないってことよ。」 ! 「そして、あなたと涼宮さんがここまで逃げてくるまで随分な時間が経過してる。 ともなれば、私だけでなく長門さんや古泉君も無事だってことが推測できるわね。」 「意味がよくわかりません…どうして長門や古泉までも無事だって言えるんです!?」 「考えてもみて。私は…自分で言うのもなんだけど、戦闘に関しては全くの素人。ゆえに、 殺されるのも容易いわ。万一私の傷が完治したとしても、その後無事でいられる可能性は極めて低い。」 「……?」 「つまり、長門さんや古泉君が死んで私が生きてる状況ってのは 常識的に考えて絶対にありえないのよ。 だってそうでしょう?彼らは私なんかより桁違いに強いんだから。まあ…逆は可能性として十分ありえるけどね。 私が死んで彼らが生きてるっていうのは…自分で言っててちょっと悲しいけど。」 なるほど、確かに理屈に当てはめて考えればそうなる。…実に的確な指摘だった。 「ありがとうございます朝比奈さん。3人が生きてるってことがわかって…俺、安心できました!」 「ふふ、さっきよりも落ち着きを取り戻したようで何よりね。状況の把握は大切に…ね。」 朝比奈さんはこれを見越して話してたってのか…?さすが大人の貫録だ。 「それで藤原君たちは…どんな様子だったの?」 「どんな様子って、俺たちを殺しにかかってきたとしか…。」 「一体誰を殺そうとしていたのかしらね、彼らは…」 「…?ハルヒを除く俺たち全員なんじゃないですか?それからハルヒを拉致でもして… おおかた記憶を覚醒させるつもりでもいたんでしょう。…結果として覚醒しちゃいましたけど…。」 「でも…彼らがあなたたちの殺害、ないしは涼宮ハルヒの拉致を明言したわけではなかったんでしょ?」 …… 彼女は彼らの目論見について、何か知っているのだろうか…? 「…キョン君、今あなたが言った推理は、おそらくはずれよ。」 …はずれ??どういうことだ? 「単に、あなたたちは成り行きで彼らの障壁となってしまっただけ。彼らからすれば、 初めからあなた達は眼中になかったわ。ましてや、殺害など論外ね。」 …?彼女の言っている意味がよくわからない。 「じゃあ、藤原たちの目的は他にあったってことですか??…それは何ですか!?」 「…混み合った話はまた後にしましょう。涼宮さんをこのまま放置したまま話し続けるのも…胸が痛むわ。」 …確かにそうだ。倒れてるハルヒをどうにかせねばなるまい。 「とりあえず、彼女を背負ってこっちに来てくれないかしら?いつまでもここが安全とは限らない。 閉鎖空間と化しつつある現状では先ほどの地震といい、何が起こったっておかしくないもの。」 朝比奈さんの言う通りだ。 …俺は彼女の言うことに素直に従い、ハルヒのもとへ駆け寄った。 「…ハルヒ、大丈夫か…??」 …… 返事がない…どうやら本当に気絶してしまっている。俺は連れていくべく…ハルヒの肩を担ごうとする。 その時だったか ? 背中が妙に熱い …… …何だこの不快感は? いや、不快なんてもんじゃない…これは 生物に 本来あってはいけないものだ 「う…!!あ!!!!が…ああ…っ!!!!!」 猛烈な激痛 混沌とする意識 一体 何が起こった 俺は 背中を手で 触ってみる …… 何だ このどす黒い 赤い液体は 意識が 朦朧とする 「キョン君…さっき私に聞いてましたよね?自分が今成すべき事を。それはね、 死ぬことよ。」 「冥土の土産に教えてあげる。藤原君たちの本当の狙いはね、私の抹殺よ。」 「まさか、涼宮ハルヒを昏睡状態に陥れた犯人が 私だったなんて想像もしなかったでしょ。」 俺 を 立って 見下ろす こいつは 誰? 「まさか、ここまで上手く事が運ぶなんてね。アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」 俺 を 見下し 笑う こいつは 誰? 意識が途絶えた …… ここはどこだ?辺りが真っ暗で何も見えない……そうか、あの世か。俺は死んじまったのか 2012年12月1日22時23分 俺は朝比奈みくるに刺殺された
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しばらくして食事を食べ終える古泉と朝比奈さん。再び話は再開する。 「さて、長門さんはようやく【過去】の話を終えたわけですが…ということは、 今度は何を話すか…大体予想はつくでしょう。洞察力の鋭いあなたならね。」 別に鋭くはないがな。 「お前が【過去】って言葉を強調したことから察すると、今度は【今】についてでも語ろうってか?」 「ご名答です、さすがですね。これから話すことは事態の核心に迫る代物です。 少し気を引き締めて聞いてもらえると嬉しいです。」 まあ、もとからそのつもりだ。 「いきなりですが、【フォトンベルト】という言葉をご存じですか?」 「本当にいきなりだな…ああ、聞いたことはあるぞ。よくテレビの怪奇特番だので、 最近おもしろおかしく扱われてる題材だろ?」 「その通りです。ではフォトンベルトについて、あなたはどこまで知っていますか?」 「んなこと言われてもな…聞いたことがあるってだけで全然詳しくはないぞ。 確か地球を滅ぼす類のものだったような記憶が。」 「それを知っていれば十分です。おそらく今から話す内容も、あなたなら差し支えなく理解することができるでしょう。」 「ならいいんだけどな。で、いい加減フォトンベルトとやらがハルヒとどう関係があるのか話してくれないか。」 「では、まずフォトンベルトの定義についてあなたに説明したいと思う。」 再び長門先生の出番だな、よろしく頼むぞ長門。 「フォトンベルトとは、銀河系にあるとされている高エネルギーフォトン、即ち光子のドーナツ状の帯。」 いきなり高度な説明がきたな。 「要は光子の集合体ってことか?」 「その認識で問題ない。話を続けるが、太陽系はアルシオーネを中心に約26000年周期で銀河を回っており、 その際、11000年毎に2000年かけてそのフォトンベルトを通過するとされている。」 「すまん長門…アルシオーネとは何だ?」 「プレアデス星団の中心的な星の呼称。」 「また質問してすまんが…プレアデス星団とは??」 「銀河系に属する新しい星団のこと。地球からおよそ10光年の距離にある。」 なるほど、わかりはしたが…なんとも掴みどころがない感じで 正直イメージし難い。 宇宙に関する知識があまりない俺には必然事項か。 「何やら苦しんでいる様子ですね。」 そりゃそうだろ古泉… 一端の高校生が大学で習うような 天文学的単語を聞かされているんだ。無理もないとは思うがな。 「できる限りわかりやすく説明するのであれば、初秋の夕暮れ時…東の空にて見られる青白い星の集団、 それがプレアデス星団です。我が国ではスバルと呼ばれ古くから親しまれています。 あなたも、この名前くらいはどこかで聞いたことがあるのでは?」 そう言われればなんとなくわかる気はする。 いや、やっぱりわからん。 「…長門よ、フォトンベルトについてもう少し詳しく説明してくれないか? ハルヒと関係があるない以前に俺があまりに無知すぎて、そもそも判断ができん。」 「了解した。では、まず【フォトン】について細かく説明したい。フォトンとは光エネルギーのことで、 粒子であると同時に電磁波としての性質を持っており、日本語では光子と訳されている。」 つまりは光エネルギーってことか。 「ところで、酸素や水素などの元素は原子から出来ていることはご存じ?」 「…いくらなんでもそれくらいはわかるぜ。授業でも習ったしな。」 「これらの原子の中心に陽子と中性子からできた原子核があり、その周りを電子が回っている。 この電子とその反粒子である陽電子が衝突すると双方とも消滅し、2個または3個のフォトンが生まれることが 知られている。地球上にはこうして生成されたフォトンの他に、太陽から飛来したフォトンが存在している。 太陽内部の核融合反応によっても生成された厖大な量のフォトンは地球に向かって放射され、 その一部は地球大気の吸収や散乱などを受けながら、粒子の状態で地表に達している。」 すまん長門、後半ほとんど聞いてなかった…この場合、この聞くという動詞には 英語ならばcanがついているところだろう。聞いていないのだから、即ちcan tだ! 「つまりこういうことだろ?さっきお前が言ってた10光年離れたプレ…プレなんとか」 「プレアデス星団。」 「そう、それそれ。そこに今言ったフォトンとやらが密集してる、それがフォトンベルトってことなんだろ?」 「そう。」 何だ、案外フォトンベルトって簡単じゃねえか。難しく構える必要もなかったな! …こういうときハルヒがいてくれれば俺に厳しいツッコミをしてくれたものを…。 『何得意げにアホ面してんのよこのバカキョン!?ただわかった気になってるだけじゃないの?』との侮蔑に対し、 『調子のってすみませんっした。』と、面白くもないコントを繰り広げていたであろうことは安易に想像できる。 今となってはノリツッコミで悲しいだけだが。とりあえずだ、フォトンベルトをイメージとしてだけでも 捉えられるようになったのだから、俺にとってはそれでもう十分だろう。俺にとっては。 「ただ、地球のそれとは桁違いの量のフォトンが充満している。」 え?地球にもフォトンとかいうのはあったのか?あ、もしかしてさっきの話にあったのか…聞いてなかった。 それより今話すべきは… 「ええっと…そんな桁違いのフォトンが集まってるフォトンベルトってのはあれか?危険な存在ってことなのか?」 「少なくとも、人類にとってみれば、あまり好ましいものではないと言える。」 俺が以前テレビ特番で見たように、フォトンベルトが地球滅亡と結び付けられていた理由も 今ようやくわかったぜ。そんな複雑な事情があったとは。 …ん?待てよ。 「だがな、長門。少なくとも俺が見た番組内では、否定派が肯定派を圧していたぞ。否定派からすれば フォトンベルトの危険性とかいうのは… 一部の疑似科学信仰者やオカルティストが存在と影響を主張するだけで 科学的根拠はないとか何とか。現にそう言っていた科学者もいたようだし…このへんはどうなんだ長門?」 「確かに、フォトンベルトというのは物理法則的にはありえない。なぜなら、そもそもフォトンは光子であり フォトンの帯が形成されることは基本ない。それに加え、太陽系は銀河系中心に対して約2億2600万年周期で 公転しており、プレアデス星団を中心に回るということは考えられない。実際に26000年周期で太陽系が 銀河系を公転したとすると光速度を超えてしまい、即ち特殊相対性理論に反するのは必至。 仮にプレアデス星団を中心に回っているとすると、そこには銀河系を遥かに上回る質量がなければならない。 フォトンベルト説では地球がプレアデス星団の周りを回っている説と、わずか26000年で銀河を回るという二説が それぞれ矛盾する、にもかかわらず併記されていることが多い。よって、フォトンベルト説が 暴論だと捉えられても無理はない。」 なるほど、全くわからん。 とりあえず…だ。フォトンベルトとやらが存在しえない産物であろうことだけは何となくわかった。 「フォトンベルトが存在するかどうか怪しいものなんだとしたら、なぜお前や古泉は執拗にフォトンベルトについて 俺に詳しく説明してくれていたんだ?おまけにだ、お前さっき『人類にとってみればあまり、好ましいものではない』 とか言ってなかったか。それを言うからには何か根拠があってのことだよな?一体どういうことなんだ?」 「涼宮ハルヒの能力が関与すれば、強引にでもそれらの物理法則を捻じ曲げることは可能。」 ??なぜそこでハルヒがでてくる?? 「涼宮ハルヒが、無意識であっても再び世界が滅ぶことを望めば… 存在不確定のフォトンベルトを実在するものとして、物理法則を無視して作り上げることは可能。 なれば、フォトンベルトが人類にとって最悪の方向へ向かうのは必然。」 なんてむちゃくちゃな…科学万能説終了のお知らせ。そうか、そういやハルヒには 願望を実現させる能力があったんだっけか…それなら可能っていう話もわかる。だが 「何をバカなことを言うんだ。ハルヒが世界を滅ぼす?あいつがそんなことを 思ってるとでもいうのか?いくら常人離れしたやつとは言え、そんなこと望むはずがないだろう??」 「あなたがそう言いたくなる気持ちもわかります。しかし、あなたにはついさっき長門さんが 話してくれたばかりなんですがね。涼宮さんが過去に何度も世界を滅ぼしたことがある、ということを。」 ッ! …なぜ俺はあのとき、こんな当たり前の質問を思いつかなかったんだろうかと思う。話の複雑さゆえに 思考がよく働いていなかったせいなのか?…何にせよ、今なら俺はこの質問を投げかけられる。 「そもそもだな…ハルヒはどうして世界を滅ぼしたりなんかしたんだ?」 根本的な疑問である。事の根幹を成す疑問である。これが解消されなければ… とてもではないが、俺は平然としていられることはできなくなるだろう。 「神だから…としか言いようがないのではないですか?」 …ハルヒが神みたいな存在だってことは認めてやる。長門の一連の話を聞いても、 尚それに抗うような野暮な人間では俺はないんでね。だがな…神であったとしてもだ、 それは全然理由になってないんじゃないか古泉?神だから滅ぼすだと?一体どういう理屈だ。 「本質的な理由はもはや本人以外には知りようがないでしょうね。ですから、憶測を挟む余地が あるのだとしたら、もはや我々には『神だから』という稚拙な理由でしか返答できないんですよ。」 だから、その『神だから』の意味がわからないんだが… 「涼宮さんが地球を滅ぼした時、世界はいつもどういう状況でしたか? 長門さんの説明を思い出してみてください。」 「…人間が私利私欲に走った挙句、戦争を起こしたんだよな。覚えてるぜ。」 「その通りです。ならば、世界の統治者とも言える神が…そのような世界を望んで維持させようとは思いますか?」 「…だから滅ぼしたってのか。」 「神という存在の捉え方にもよりますがね。争いが無く人々が幸せに暮らせる世界… 恒久平和が続く完璧な世界を創りあげたかった…のではないか。僕はそう考えています。」 …確かに、ハルヒがそういった類の理想郷を構築せんと邁進していたであろう事実は 長門の説明からみてとれる。その瞬間だったか、俺の中に新たなる疑問が生まれる。 「…ハルヒは第一、第二、そして第三世界時においては自分が神だっていう自覚はあったわけだよな? まあ、もともとが神の分身だったらしいから当たり前っちゃ当たり前なんだが。それでだ、なぜ今のハルヒには その自覚がない?そして、なぜ神という自覚がないにもかかわらず、フォトンベルトに干渉できる?」 「涼宮さんになぜその自覚がないのか…それについては返答しかねます。しかし、涼宮さんが 徐々に神としての意識を取り戻し…そして、それが何らかの経路で深層心理に働きかけていたとしたならば… 無意識にでも能力は発動し得ます。無意識にでも。それは、あなたが一番よくご存じのはずです。」 「ああ…確かに、あいつはそんな芸当が成せるやつだよな。それなら、いつからあいつにそんな自覚症状が 現れ始めた?いつ、そしてどういった契機でそうなったのか…それについては何か知ってるか?」 「涼宮ハルヒに異変が生じたのは昨日の…およそ午後6時15分あたり。」 なんだと??その時間帯って確か 「そう。涼宮ハルヒの意識が途切れ、失神した時間帯とほぼ同時刻。ならば、その時間帯にて 涼宮ハルヒに対し外部から何らかの干渉があったのは確実。肉体的打撃の痕跡がなかったことから、 重度の精神的ショックにより意識を奪われたと考えるのが妥当。」 「原因は??なぜそんなことに??」 「あの時間帯にて、私は微量ながら通常の自然条件においては発生し得ないほどの異常波数を伴う波動を 観測した。気になるのは、それが赤外線・可視光線・紫外線・X線・γ線等、いずれにも属さない 非地球的電磁波だったこと。これら一連の現象が人為的なものであると仮定するならば、現在の科学技術では 到底成し得ない高度な技術を駆使していることに他ならない。その波動が涼宮ハルヒの脳波に何らかの影響を 及ぼし、結果として『自身は神である』というある種の覚醒を引き起こしたのではないかと私は考えている。」 …… 「そして、これはあなたの先程の質問に対する答えとなるが…涼宮ハルヒの全容を私が知ったのもこのとき。 卒倒時、涼宮ハルヒから膨大ともいえる量の情報拡散を確認、同時に私はその解析にあたった。ただし、 その情報量が私個人のスペックをはるかに凌駕するものであったため、大雑把な客観的事象を除いては、 私は解析を中断せざるをえなかった。即ち、私があなたたちに話した内容というのは非常に断片的なもの。 十分な情報摘出ができず、私は申し訳なく思ってる。」 …いや、むしろ俺はそれに対し感謝せねばならないだろう。断片的だったその情報に関してですら、俺は 理解が追いつかなかったのだから。それ以上の説明をされたところで頭がオーバーヒートしてしまうだけであろう。 「長門さんは、本当によく頑張ってたと思います!」 珍しく声を張り上げる朝比奈さん。一体どうしたのだろう? 「実はあのとき…彼女は」 「古泉一樹、朝比奈みくる。そのことは他言無用と言ったはず。」 「すみません長門さん。しかし、彼には伝えておくべきです。いえ、僕が彼に知っておいてもらいたいのです。」 「そうですよ!またあんなことが起こったらどうするんですか!? キョン君を心配させたくないって気持ちはわかりますけど…それでも!」 何だ何だ??長門に何かあったってのか?! 「実はですね、あのとき僕たちが止めなければ彼女は…ちょうど内部容量を超え フリーズしてしまったパソコンのごとく、二度と機能しない体になっていた可能性があるんですよ…。」 パソコンは電源を落として起動させればまた使えるようになる。しかし長門はどうだ? いくら情報思念統合体とはいえ、体は人間のそれと一緒なはず。そんな彼女がフリーズを起こしてしまったら…?! 「長門!?どうしてそんな無茶なことを!?」 おそらく長門のことだ…無理やりだとわかってても、なるべくなら 情報の取りこぼしは防ぎたかったのだろう。だが…それとこれとは別問題だ。 「以前言ったよな!?無茶はするなって…!何かあったら俺に言えって…!そりゃ、あのとき俺は ハルヒのとこに向かってていなかったし、仮にいたとしても俺のような一般人がその解析とやらを 助けてやることはできんかったろうが…そういう問題じゃねえんだよ!俺も、そして古泉や朝比奈さんもだが… お前の無理するとこは誰も見たくねーんだ!!ここにはいないがハルヒもな。だから…長門、俺に約束してくれ。 二度とこんな真似はしないってな。もしやるようなら…罰金だからな?それがSOS団ってやつだ。」 「…っ。」 罰金という言葉に反応したのか、それまで重かった(ように見えた)長門の顔色が不意に明るくなる。 「…わかった。私も、罰金は払いたくない。」 シャッターチャンスだったかもしれない。そう思わせるような…優しい表情だった。 …で、ふと思ったんだが…。 「もしそれが人為的なもんだったとしたら、犯人は未来人かもしれないってことか?」 「未来技術を応用しているのだとすれば、犯人が未来人であるという可能性は非常に高いと思われる。」 …… 俺は思い出していた…二日前、放課後にて俺の下駄箱に入っていた… 一枚の手紙に書かれていたことを。 『どうか、未来にはお気をつけください。』 ハルヒをこんなことにしやがったヤツは未来人ってことかよ。 あの手紙の意味がようやくわかったぜ…朝比奈さん大には感謝しねーとな。 ふと朝比奈さんのほうを見る俺。 「え、ええっと、キョン君??今の話だと犯人は未来人だとか何とかそういうことらしいですが、 決して私は犯人じゃないですよ?!?どうか信じてください…。」 涙目ながらに懇願する朝比奈さん。どうやらこのかたは何か勘違いをなさっているようだ…。 「誰も朝比奈さんが犯人だなんて思ってませんよ!?」 「…じゃあどうして今私のほうをジロっと見たんですかぁ…?」 う…これはまずい。朝比奈さん大のことを思い浮かべ、朝比奈さん小をついつい見てしまったなどとは 口が裂けても言えない。なぜなら朝比奈さん大のことは本人(小)には話さないようにと…以前彼女と そう約束したからだ。詳しい理由はわからんが…やはり大人となった自分に過去の自分が会ってしまう、 あるいは存在を認知されてしまうというのは、時系列上いろいろと問題が生じてしまうのであろう。 「いえ、この事件には未来が関与してるとか…そういったことが今しがたわかったので、 未来人である朝比奈さんは何かそういう情報を掴んでいないかなあと思って見たってだけの話ですよ。 何か知ってることとかありませんか?最近未来で不穏な動きがあったとか何とか。」 ふう、なんとか上手くごまかせたぞ。 「あ、そういうことだったんですね。…そうですね…不穏な動きですか…。」 「些細なことでもいいんです。何かありませんか?」 「…そういえば最近藤原君たち一派が事あるごとに時間移動していたのがちょっと気になります…。」 …やっぱりそうだったか藤原よ。一連の事件の一部始終がお前の差し金だったんだな。 まあ、朝比奈さん大と直接会って『藤原くん達の勢力には気を付けてください。』 と忠告されていた段階ですでに薄らと気付いてはいたんだが。 「長門よ、今朝比奈さんの言ったこと聞いたよな?ということは、犯人は藤原一派で確定か?」 「そ、そんな、時間移動といっても、もしかしたらそれは私のただの勘違いだったかもしれませんし、 たったそれだけの情報で藤原君たちを犯人扱いしてしまうのは…」 うーむ…朝比奈さん大にそう言われたと本人には言えないからなあ…苦しいところだな。 「もちろんその可能性もある。まだ確定したわけではないが、彼らを警戒するに越したことはない。 その場合、以前彼らと連動していた天涯領域や橘一派に対しても同様の措置をとるべきだと考える。」 長門の言うとおりだな。 「……」 何か言いたげな顔をしている朝比奈さん。一体どうしたんです? 「ええっと…犯人が藤原君たちでしろそうでないにしろ、 いずれにしても 犯人は未来人だっていうのはもう決まってるんですか?」 「可能性は非常に高いですね。」 「だとしたら、私にはなぜこんなことをするのか理解しかねます…。」 「?どういうことですか?」 「考えてもみてください。涼宮さんに神としての自覚を促すということは…つまり、この世界をもう一度 滅ぼしかねない可能性を与えてしまうってことなんですよ?当たり前のことですが、現行世界が消滅してしまえば つまりは未来だって消滅しちゃいます。私たち未来人からすれば帰る場所が無くなっちゃうんですよ。 にもかかわらずそんなマネをするなんて…あんまりこういう言い方はしたくはないんですけど、これじゃ 自殺行為と変わらない気がします…そういう人たちがいるのだとしたら、とても正気の沙汰には思えません…。」 肩を落として悲しげな表情をする朝比奈さん。やめてください、あなたにはそんな表情似合いませんよ…。 それにしたって、朝比奈さんの言い分も至極当然である。一体どういった目的でハルヒにこんなマネをしたのか? 犯人が未来人だったとしたなら、なおさら考えさせられるべき問題だ。 「古泉、理由に関して何か見当はつくか?」 「こればかりは僕にもさっぱり…最大の謎としか…。」 「そうか…長門、お前は何かわからないか?」 「古泉一樹同様、見当の余地もない。何より、現段階では情報が少なすぎる。」 誰にもわからない…か。それならいくら悩んだって仕方あるまい。 …そういえば 「なあ、長門。」 「何?」 「仮にハルヒに神としての意識が復活したとしても、ハルヒがこの世界を好きになれるように… 維持したいと思わせるように俺たちが働きかけることができるようなら、世界は消滅せずに済むんじゃないか? 原理的にはあれだ、いつぞやの閉鎖空間のときみたいにな。」 「…それは非常に厳しいと思われる。」 どうして!?と言いそうになったが改めて考えてみりゃ、ハルヒは過去三度も世界を滅ぼしてしまった 神様なわけで、そういう事例がある限り俺らがいくら説得したところで態度を変えるかどうかは… 常識的に考えたらそれは困難だろう。いや、困難どころか不可能に近いかもしれん。だが 「万が一にでも説得に成功すれば世界は崩壊せずに済む…そういうことだよな? 可能性がゼロじゃない限りは、希望はあるはずだよな?」 しかし、長門から発せられた言葉は…無機質で冷めていた。 「仮に成功したとしても、事態の解決は望めない。」 …… 一瞬『万事休す』という言葉が頭をよぎる。 …ちょっと待ってくれ… 本当にどういう状況なんだ?? 「涼宮ハルヒの能力は、あくまでフォトンベルトによる人類への悪影響を助長しているに過ぎない。」 わけがわからない。 「つまり涼宮ハルヒの能力の有無には関係なしに、 フォトンベルトは人類にとってマイナスベクトルへと推移している可能性がある。」 …え? 「お、おいおい…それじゃあアレか!?ハルヒが望むにしろ望まないにしろ… いずれにしても世界は滅ぶ運命にあると、お前はそう言いたいのか??」 「そういうことになる。」 「待ってくれ!?さっきハルヒの能力無しには地球崩壊の科学的根拠は成立しないって言ってたじゃねえか? それにだ、そもそもフォトンベルトとかいうのが存在するかどうかも疑わしいんだろ?ハルヒが望めば、 お前がさっき言ったように物理法則でも無視してフォトンベルトとやらを作りあげるんだろうが… 裏を返せば、つまり望ませなければ、そんなもんも誕生しないってことだろ?? それなのに、なぜお前はフォトンベルトがあること前提で話を進めているんだ??これじゃ納得できねえ…!」 「きょ、キョン君!落ちついてください!長門さんだって、私たちと気持ちは同じはずなんです!」 …… 朝比奈さんが叫ぶなんて珍しいこともあるもんだ。そのせいか…体から熱がひいていくのがわかる。 しまった…俺は熱くなり過ぎていた。無意識だっただけで、俺は長門に対して どことなくぶっきら棒な言い方になってしまってたんじゃないのか…? 「あ…すみません、出過ぎた真似でした…!長門さんにも…勝手に気持ちを代弁しちゃってごめんなさい…。」 「いい。私もこの世界は安寧であってほしい。それはあなたたちと同じ。」 「朝比奈さん…むしろ言ってくれてありがとうございます。おかげで冷静さを取り戻せました。 それと長門…ゴメンな。お前を問い詰めようとか、そういうつもりはなかったんだ。」 「わかってる。言うなれば、【フォトオンベルト】の定義を曖昧のままにして話していた私のミス。 存在の確証も無しに【フォトンベルト】という語源を安易に会話に使用していたのは相手に誤解を招くには 十分な行為であり、私の不覚といたすところ。従って、次回から私の言う【フォトンベルト】とは、 あくまでそれに類似した何かであって、いわゆる一般的に厳正定義されているフォトンベルトとは 差別化することをあなたに伝えておく。これでいい?」 「つまり長門さん、こういうことですよね。確かに、『いわゆる肯定派が唱えるフォトンベルト』が 存在する確証などどこにもない。しかし、フォトンベルトに近しい何かが太陽系全体に接近しているのは 紛れもない事実であり、いくつもの科学データがそれを証明している。そして、その事実が地球に 害を及ぼしかねない可能性を示唆している。」 「そういうこと。」 古泉がフォローに入ってくれた。なるほど、なんとなくだがわかってきたぞ。つまりフォトンベルトではなく、 近しい別の何かと考えればいいんだな。ただ、その近しい別の何かの具体的呼び名が今はない。 ゆえに、とりあえずは暫定的に【フォトンベルト】という呼び名でこの場は定着させましょうということだ。 …… って、近しいって何ぞや?? 「長門、近しいって何ぞや??」 反射的に心の声がダイレクトに出てしまった。だってその通りなんだから仕方ないじゃないか! そうだろう??ただでさえフォトンベルト自体が意味不明なのに、それに近しいって一体全体何なんだ?!? 「フォトンは先述したように…」 しかし、そんな俺のふざけた口調にもかかわらず長門は黙々と答えてくれている。 何も反応がないってのも…それはそれでちょっと悲しいもんだな…。いや、待て 一瞬だったが、俺は長門の口がにやけたのを見逃さなかった。 「電子と…反電子の物理、的崩壊によって…」 言い方も何かもぞもぞとしておかしい。確信した、長門は間違いなく俺の『何ぞや』に受けている。 なんとも、世の中には変わった笑いのツボをお持ちのかたがいるもんだ。 「長門…そんなに何ぞや?がおかしかったのか?」 「今話してる途中…というか、そんなことはない。」 「無理しなくていいんだぜ?」 「そんなことはない。」 「ホントか?」 「そんなことはない。」 「やっぱ面白かったんだろう?」 「そんなことはない!」 !? 「おやおや、キョン君も人が悪い。まさか女性を辱めて悦に浸る趣味をお持ちとは、思いもしませんでしたよ。 そのせいでしょうか、長門さんも随分とご立腹のようです。」 「そうですよキョン君。せっかく長門さんが一生懸命お話していたのに…そりゃ長門さんでも怒りますよ!」 なんということだ…長門には怒られ、古泉と朝比奈さんはその長門の援護射撃に入ってしまわれた。 さらば俺フォーエバー! 「…とにかく、話を続ける。」 「長門マジすまん、許してちょんまげ。」 「…今の…面白かったから…許す…っ。」 「キョン君、あなたは本当に何を言って…呆れて笑いが込み上げてきたではありませんか。」 「ちょ、キョン君、こんな重要な話の途中に何言って…くっあはは。」 朝比奈さんの言うとおりだよ。何言ってんだよ俺は…??ハルヒがいないからって テンションがおかしくなってるんじゃないのか??いや…こんな重たい話だからこそ 反動で笑いを取りに行ってしまったのかもしれない。何にせよ、こういう空気もたぶん必要…だと思う。 「本当に話を戻す。フォトンは先述したように電子と反電子の物理的崩壊によって生まれた光の粒子だが、 人間が一般的に知る光とは異なり、多次元の振動数を持つ電磁波エネルギー。したがって大量のフォトンに さらされたとき、真っ先に重大な影響を受けることになるのは地球の地磁気や磁気圏…最も深刻な影響は 地球磁場の減少。19世紀初頭以降、その動きが活発化。その減少率が……」 話は続いた。 その後も長門から様々な科学データの提示、説明を受けた。地磁気減少による地球被害はもちろん、その他にも 太陽系惑星が総じて地球と同じ温暖化現象にあるということ、天王星や海王星でポールシフト即ち地軸移動が 起きたということ、土星や金星の明るさが劇的に増しているということ、周期的に沈静化するはずの太陽黒点が 一向に衰えないということなどなど、それはそれは幾多の情報処理に膨大な時間を削られたさ、ああ。 …… ふう… あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ …と発狂したくなるところだったが、俺にも人並みの精神力がある。心の中では叫んでいても、 実際それを口に出したりはしないさ。つまりである、俺は長門や古泉による複雑怪奇&高度な説明を 長時間に渡って聞き続け、すでに俺の脳内は限界に達してしまっているのである。言わずもがな、 思考回路も悲鳴を上げてしまっている。このままではまずい…俺は古泉に渾身の一言をぶつける。 「古泉、休憩をとらないか?」 「奇遇ですね。実は僕もあなたと全く同じことを考えていたところだったんですよ。」 話に夢中だった俺は気付かなかったが…いつのまにか古泉の顔も、俺に負けんと言わんばかりの 疲弊具合ではないか。そして、朝比奈さんも朝比奈さんで同様の様子。 そうか、みんな疲れていたのか。そりゃ無理もないさ。 「食事を食べ終えた後ですし、ここはみんなでデザートでも取りませんか? 甘い糖分は思考を活性化させてくれますし、気分転換も兼ねて一石二鳥というものです。」 良いことを言うじゃないか古泉よ。いい加減何か甘いもんが欲しかったところだ… 疲れを癒すためにも、俺はこの久々のくつろぎ空間を思う存分味わうことにしよう。 注文を聞きにこちらへとやって来る店員…まあ、つまりは森さんなわけだが。 「私はバニラカフェゼリーでお願いします♪」 「そうですね…では僕はチーズケーキを。」 「私は白玉アイスを希望する。」 「俺はチョコレートパフェで。」 「バニラカフェゼリー、チーズケーキ、白玉アイス、チョコレートパフェをそれぞれ一つずつですね。畏まりました。」 颯爽と去っていく森さん。これで数分後には美味しいデザートにありつけるというわけだ…。 「おやおやキョン君、早く食べたそうな感じですね。」 「当たりめーだろ。そういうお前も同じ穴のムジナだ。」 「バレてしまいましたか。腹が減っては戦はできぬとは、よく言ったものです。」 戦じゃなくて話し合いだけどな…まあ、いずれにしろ疲れることこの上ないが。 「私も早く食べたいですうぅ…。」 干からびたかのごとくぐったとしている朝比奈さん。待ち遠しい気持ちは十分わかりますよ。 「長門、お前はいつもながら平静を装ってるわけだが、やっぱりお前もデザートが待ち遠しいか?」 「待ち遠しいか?と聞かれれば、間違いなく今の私は『はい』と答える。」 つまり待ち遠しいんだな。 そんなこんなで、ゾンビのごとくうなされていた俺たちのもとに… 5分後くらいであったろうか、ようやく希望の品が届いたのであった。 「ゆっくり召し上がってくださいね♪」 またまた颯爽と立ち去っていく森さん。言われなくともそうしますとも。 …… 口の中にゆっくりと広がる甘いチョコの味…くうぅぅ!これはたまらん。 状況が状況だっただけに余計に美味しく感じるぞ。 「ああ…幸せです♪」 「さすが新川さん、良い仕事をしてますね。」 朝比奈さんも古泉も甚だしくご満悦の様子だ。 「いつか…。」 ん?何か言ったか長門? 「私もいつか、こういうアイスのような…美味しくて甘いデザートを作れるようになりたい。」 !? … 一瞬びっくりしたぜ。お前がまさか、こんな女の子らしい言葉を口にするなんてな。 お前の料理熱はカレー方面だけかと思い込んでいた俺だったが…どうやら料理全般に興味があるようだな。 一体いつのまに…?いつの日か、お前がデザートを作れる日を心待ちにしてるぜ。 さてさて、二重の意味で甘い時間を堪能していた俺たちであったが、いつまでもデザートに 甘んじているわけにもいくまい。本当は延々とのんびりくつろいでいたいが…ココに来た本当の理由を 忘れちゃいけねえからな。ハルヒの今後がかかってる重要な会議ってことくらい…いくら怠慢な俺でも 常時頭の隅っこには入れておいたさ。そもそも、ファミレスでこんな深刻な話をしていたこと自体、 客観的に考えれば信じられないことこの上ないが…とりあえず、話を再開させるとするぜ。 しんどいが、これもハルヒのためだ。 「で、他に何か俺に話さなきゃならんことはあるか?」 「実はですね、これと言ってあなたに話さねばならないことはもうないのですよ。」 「何、そうなのか?」 「ええ、そうです。実に長きにわたって頭が痛くなるような話を聞いていただいて…本当に今日はお疲れ様でした。」 「…いやいや、お前も説明いろいろご苦労だったぜ。」 「それはどうもです。…そうですね、何か我々に尋ねておきたいことはありますか? その質問に応じて、今日はお開きにしたいと思ってます。みんな疲労困憊のようですしね。」 尋ねたいこと…と言われてもだな、俺が今日どんだけ長門先生にご師事を受けたと思ってんだ… 彼女が一連の説明において、何か取りこぼしているようには全く思えない。ゆえに、俺には 質問すべきことなど何一つ残されてはいないのである。よし、それじゃあ今日はこれでお開きとするか。 …… …? …何か喉につっかかる…はて、一体これは何だろうか。 疲弊しきった頭をフル動員させ、その違和感を探索すべく渾身の力を振り絞る俺。 …… 夢… そうだ、夢のことだ…! 「みんな、ちょっと俺の話を聞いてくれ…。」 俺は話したのだ。そう…昨日、一昨日と…俺が夢の中で一部始終見ていた惨劇を。もちろん、 話したのには理由がある。長門や古泉から今日受けた話と俺が見た夢との間に、随分な数の類似点を 見出したからだ。聞いてるときに感じたデジャヴ感とは、このことだったんだな。 …… 「なるほど…確かにその夢はいろいろと筋が通ってます。例えば地球滅亡の様子においては 火→氷→水と…見事に涼宮さんの第一、第二、第三世界崩壊の末路と被っていますね。 そして水に包まれた後、地球が消滅…正しくは見えなくなった…そうですよね?」 「ああ、そうだ。」 「それも実は説明がつくんですよ。フォトンベルトの作用に照らし合わせればね。」 何、あれはフォトンベルトによるものだったのか?? 「そこのところを詳しく説明したいと思う。実は、地球はフォトンベルトの周辺部にあるヌルゾーン と呼ばれるエリアに突入する際、暗黒の中で星さえ見ることが出来ない状況に置かれる可能性がある。」 「暗黒?まさか地球が見えなくなったのはそのせいか…?で、それは一体どういう原理だ??」 「光子の影響で太陽光が視界から遮られる状況に置かれるから。 光源体が無ければ、人は物を識別することはできなくなる。」 「太陽光が全く当たらなくなるだって?それはあれか?例えばある場所が昼時ならば、 その地球の反対側に位置する場所は夜だとか…そういう当たり前の話じゃないってことか?」 「そう。地球の球体全てが暗闇に包みこまれる…そして、太陽光が当たらなくなった際には 地球全土で寒冷化現象が起こり、瞬く間に地球は極寒の地へと変貌する。」 恐ろしい事態だなそりゃ… 「それだけではない。地球の電磁気フィールドがフォトンエネルギーによって崩壊させられることにより、 あらゆる電気装置が操作不能となる。もちろん、人工的な照明器具類も一切用を足さなくなる。」 「つまり…完全なる暗闇…ってわけか。」 「そういうこと。」 …… 万が一にもそういうことになれば、本当に地球は終わってしまうではないか。 「ちなみに…フォトンベルトに完全に突入するとされる時期はいつ頃かわかるか…?」 「今年2012年の12月23日だと推定される。その場合、翌日24日までに第四世界の崩壊は完了される。」 …… 俺が二日前に見た夢の世界での日付を俺は覚えている… ああ、長門の言うとおりだ、確かに12月23日だったよ…あの忌まわしい日はな…。 …なるほど、今の長門の説明で全てに納得がいった。 冬にもかかわらずの酷暑は地磁気の漸進的低下による環境変化のせい… 有り得ない規模の大地震は地球の磁場が消滅したせい… 助けを呼ぼうにも携帯電話やラジオが全く機能しなかったのは光子による電磁波のせい… ハルヒを見つけた際に辺りが真っ暗になったのは太陽光が遮断されたせい… その直後に急激に冷えだしたのは寒冷化のせい… …… あの夢は…まさか予知夢だったとでもいうのか?じゃあ、まさか本当にあんな出来事が後一カ月ちょいで… いや、ふざけんじゃねえ…!?指をくわえて、家族や友人が死ぬのを待ってろってか? 「そんな未来、俺はぜってぇ認めねえ…。」 「何一人でいきりたってるんですか貴方は。『俺』じゃなくて『俺たち』でしょう?」 「そうですよ。私たちも協力しますから!絶対にそんな未来になんかしちゃいけません…!」 「もちろん、私も協力する。」 「みんな…ありがとう」 本当に良い仲間に恵まれたと思う…俺は。 「…それにしても、どうしたって俺はあんな夢を見ちまったんだ? 予知夢にしたって、俺にはそんなもんを見れる特異体質だの何だのあるわけでもない…。」 「…これは僕の推測ですが。おそらく、あなたに未来を見せたのは涼宮さんの力によるものでは? 一度目、そして二度目の夢にも際して涼宮さんの…助けを求める声が聞こえたらしいじゃないですか。 それが何よりの証拠かと。」 …… つまり、ハルヒは俺に助けを求めていた…? 「無意識ながらも神としての自覚を取り戻しつつあったのなら… キョン君に地球の崩壊を止めてほしかった…からじゃないかな?私にはそう思えます…。」 朝比奈さんの言うとおりなのだとしたら、俺が翌日ハルヒに対して思っていたことは 杞憂でも何でもなかったことになる。俺の読みは間違っていはいなかってことかよ… できればはずれてほしかったがな。まあ、もはやそうも言ってられまい。 「とりあえず俺のことはこれで置いといてだな、これから俺たちは何をすればいいんだ? どうすればハルヒと…そして世界を救える?」 「有効な策が現時点では思いつかない…というのが実状ですね…情けないですが。」 「そうですね…相手が未来人なのなら尚更です。万が一にも追い詰めたとしても、時間移動されてしまうのが オチでしょうし…それに、まずどこにいるのかもわかりません。他の時間平面上に潜んでいて、涼宮さんに 干渉する時にのみこちらの時間軸に顔を現したりするようでしたら、こちらからは何も手が出せません…。」 「つまり…ハルヒの近くに連中が現れるのを待つしかない…と?」 「端的に言えばそうなる。」 「少しばかり悔しいですがね。こればかりはどうしようもありません。」 古泉、長門、朝比奈さんの言うことに倣うのであれば、つまり、今俺たちにはハルヒを見守ってやることしか できねえってことか…納得いかねえが、しかし仕方ないことなのだろう。その代わり、連中が現れた際には 全力をもってハルヒは守るつもりだがな。よしんば、ヤッコさんも袋叩きにできれば言うこと無しだ。 …ああ、わかってるさ、そう簡単に上手く裁ける敵じゃねえってことくらいな。なんせ相手は未来人だ。 でも俺には頼れる仲間がいる…そう思えば少しは気が楽になるってもんだろう…。 そんなこんなで今日はお開きとなった。言うまでもないが、俺は今から家に帰って睡眠をとる必要がある… いくらハルヒを守ると言えど、万全な体調で挑まねばそれこそ意味がない。万一にも思考回路が働かない などという事態に陥れば、それこそ本末転倒であろう。それに、一旦長門たちの話を整理する時間も必要だ。 時計を確認する俺。時刻は…朝の6時10分か。なんと、俺たちはいつのまに こんなにもの長時間を会話に費やしていたというのか?時の経過は早いのだとつくづく実感する。 疲労した体で家に戻った俺は、早速ベッドに横になった。今すぐにでも眠りそうな勢いである… 昼夜逆転してしまったが、一日くらいどうってことないだろう。ハルヒのためだと思えば何ら惜しくはない。 …… 寝る前に俺は夢のことに気づく。そういえば、またしても俺は何かしらの夢を見てしまうのであろうか? 昨日、一昨日と、見た内容が内容なだけに寝るのが恐ろしく感じられるが…しかし、 古泉や朝比奈さんの言っていたように、あれらがハルヒの俺に対する何らかのメッセージなのだとしたら… 俺はそれから目を逸らすわけにはいかないだろう。というか、そんなことは許されない。 …意識が薄れていく。そろそろ眠りに入る頃合い…か。 ま、覚悟はできてるぜ。どんな夢でもかかってこいや。 俺は ゆっくりと目蓋を閉じた
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いつからだったのだろう──── ────世界に色がついたのは いつからだったのだろう──── ────静寂に音楽が流れ始めたのは いつからだったのだろう──── ────いつも笑ってられるようになったのは いつからだったのだろう──── ────私の心にあいつが現れたのは ‐ 涼宮ハルヒの羨望 ‐ いつもと変わらぬ日常。 くだらない授業。 適当に聞いとけば満点の取れる内容なんて、ばかばかしくてイヤになる。 くだらない、ほんとにくだらない。 この生活が気に入っている人も居るんだろうケド、私にとってはただの苦痛。 なんで私はここにいるの? なんのために生きてるの? ふと、頭をよぎる当然の疑問。 誰しもが思い、誰しもが感じる、疑問。 ねぇ、なんで? 小さく、ほんとに小さく、誰にも聞こえないように呟いた。 そうすることで、何かが変わる気がしたから。 実際は─── ───言うまでもないケド。 退屈は私を覗き見る。 退屈は私を蝕む。 まるで、私は私自身が置き物のように感じる。 その気持ちに押しつぶされそうになる。 目頭が熱くなる。 私は、世界の部品じゃない。 耐え切れなくなって、前の席を叩く。 「……どーした?」 授業の邪魔にならないように、小さく呟くキョン。 めんどくさそうに、いかにもめんどくさそうにね。 キョン。 「何だ?」 ……なんだろう? 何のためにキョンを呼んだの、私。 こいつと話してると気がまぎれるの? そうなの、私? 「………ハルヒ?」 何よ 「いや、用はないのか?」 あるわけないじゃない。 ないから呼んだんじゃない。 ……あー、我ながら意味わかんないわね。 イライラするイライラするイライラする。 なんかない? 我ながら馬鹿馬鹿しい台詞。 「なんか、ってなんだ?」 なんかはなんかよ 「まず、何をしたいのか俺によくわかるように言ってくれ」 再び私を沈黙が覆う。 私、何がしたいの? …… 「ハルヒ?」 なんでもない。 「……おーい?」 もういい。 私がそう言うと、諦めたのか、前を見る。 そして会話中に黒板に書かれた文章をノートに書き写す。 なんでこいつはこんなに勉強しててあんなに頭悪いの? ばっかみたい。 長く連なる時の流れは私に退屈という名のナイフを突き刺していく。 その苦痛のせいで、寝ることもできない。 何か起こらないかな。 そんなどうでもいいことを望む。 ───あら? 何気なく校庭を眺めると古泉くんが歩いて校門へと向かっていた。 なんだろう、早退かな? 具合は悪そうに見えないから、何か用事でもあるのかな? 古泉くんの帰宅する理由を考えることで多少の気はまぎれた。 でもわかんないから今度聞いてみよう。 覚えてたら、だけどさ? ───キーンコーンカーンコーン やっと。 やっと終わった。 なんでこんなにかかるの。 時と交渉ができるのなら私の時間だけ早く進むようにして欲しい。 あ、楽しいときは別よ? 楽しいときはむしろ時間の流れを遅くして まぁいいわ、ようやく、私の時間だから。 「ハルヒ、さっきはどうしたんだ?」 不意に前の席から声がかかる。 なんでもないわよ、さ、行くわよ 「行くって?」 SOS団に決まってるじゃない! 「あ、ああ」 私は彼を残して教室を飛び出る。 待ちに待った放課後の時間。 待ちに待ったSOS団! さぁ、今日は何をしようかしら。 みくるちゃんにどんな服着させようかな。 そういえば昨日ネットオークションにかけられてたコスプレどーなったんだろう。 落札できてるといいな。 頭からどんどん湧き出る期待を胸に、私は意気揚々と文芸部室へ飛び込んだ。 部屋には有希と着替え中のみくるちゃんがいた。 「やっほぉー!」 「あ、こんにちは涼宮さん」 挨拶はもっと元気よくしなさい! そうね、語尾ににゃんとかつけるといいわ、かわいいから。 30分後、キョンが遅れてやってきた。 遅い! なんで私と同じクラスなのにこんなに遅いのよ! 「ちょっと成績のことで岡部とな」 なんなら私が一から教えてあげてもいいわよ? 丁寧に、かつわかりやすく。 「いい、隣で『なんでこんな簡単なのわかんないのよ、もーぅ』とか言われたくないから」 失礼ね! そんなこと…………ないと思うわよ? 保障はできないけど。 うん、100%なんてこの世に存在しないんだから。 「そういえば古泉は?」 古泉くんならさっき学校を出て行くのが見えたけど? 「古泉一樹は用事のため早退」 あら、有希、聞いてたの? 「昼休みに少しだけ」 理由はわかる? 「不明」 そっか。 楽しい部活の時間が過ぎていく。 有希が本を閉じた。 それは部活終了の合図。 いつも凄く正確で、驚くぐらい。 私は荷物をまとめて部室を出る。 明日は土曜日ね、いつもの場所でいつもの時間に!古泉君にも言っといて。 最後にそう皆に伝えた。 登校の時はキツめの坂道を、私は悠々と、一人で降りる。 ずっと、皆といられたらいいのに。 ふと、立ち止まる。 ずっと、いられたらいいのに? 不意に、不安が、私を掴む。 どうしてこんな気持ちになるの? わからない。 まるで、この日常が壊れることへの不安? 気にしすぎよ、少しは体もやすめないと壊れちゃうわ。 違う。 何が違うのかはわからない。 けど、何か違う。 いつも感じる日常とはまた別。 退屈という名のナイフじゃない。 これは何? 不安で足を早める私。 家について、ご飯を食べても、まだ私に絡みつく。 お風呂を浴びてさっぱりしても、何なのこれ。 部屋の中で電気もつけずに、私は枕を抱きかかえる。 ふと、思いついた。 ピリリリリリリ 「もしもし?」 キョン、私だけど。 「どうした」 ……… まただ、なんで私またキョンに? 「明日、ちゃんと来てよ?」 …今更じゃない、私? キョンは予定をサボったりはしない。 少なくともいつもはそうだったし。 「どーした?」 何が? 「なんか、今日のお前変だぞ?」 気のせいよ。 「…そうか?」 そうよ。 「わかった、明日もちゃんと行く」 絶対よ? 遅刻したらまたおごりだからね! 「遅刻しないでもおごるのは俺じゃねーか」 つべこべ言わないの! 「へいへい、じゃ、また明日な」 あ、キョン。 「ん?どした」 ……なんでもない。 「?」 明日、ちゃんと来なさいよ? 「わかったわかった、んじゃな」 電話が切れる。 なんだろう、この気持ち。 カーテンを開けて、窓の外を見る。 どこまでも広がる、星の瞬く夜空。 3年前に校庭に書いたメッセージは、どこかで誰かが読んでるだろうか。 その日の月は、とても綺麗だった。 ふぁ~。 よく寝た。 夜空を眺めながら、私はカーテンを開けて寝た。 そうすれば私は安心できたから。 昨日、あんなに不安でいっぱいだった頭も、一晩寝たらすごく軽かった。 結局なんだったんだろう、あれ。 まぁいいわ、準備して行きますか。 キョンより早くいかないとね、おごりはあいつ、私じゃないわ。 そこについた時、キョン以外のメンバーはすでにいた。 やっぱりできのいい団員がいると違うわね、うん。 みくるちゃんはやっぱりかわいいわね、私服も。 「そーですかぁ?ありがとうございます」 ほんとにかわいい、もし私が男だったら襲ってるわ、間違いなく。 有希、いつも眠そうだけど、ちゃんと寝れてる? 「大丈夫」 いつも通りの口調で返答される。 ならいいんだけど。 古泉くん、なんで昨日早退したの? 「少し親族のほうに急な用事ができまして」 肩をすくめて笑顔で答える。 ふーん、ま、いいわ。 にしても、キョンはいつも遅いわね。 いっそのこと集合に遅れないように私が毎朝電話してたたき起こしてやろうかしら。 時間が過ぎていく。 遅い! 遅い! 本当に遅い! もう一時間も遅刻してるじゃない! 携帯に連絡しても出ないし! なんなのよもう! それにしても遅いわね! 何してるのかしら! もう一度携帯電話に手を伸ばす。 こうなったら出るまでずっとかけてやるんだから! ピリリリリリリリ…… ガチャッ あら?繋がった? 「ハルヒちゃん?」 出たのは、キョンの母親だった。 なんで? 予想もつかなかった。 考えたくもなかった答えが返ってきた。 うそよ! 公道を私達を乗せた車が疾走しついく 「きっと、大丈夫ですよ、涼宮さん」 ありがとう、みくるちゃん。 そうよね、大丈夫よね。 うん、じゃなきゃ許さないわ。 絶対、絶対許さない。 だって、だって約束したじゃない、今日絶対来るって、昨日。 「もうすぐつきます」 古泉くんが呟いた。 走る窓から病院が見えた。 キョンが倒れた? ありえない。 そんなベタな展開、認めないからね。 さようならも言えずに、サヨナラなんて、そんなの認めないからね! 原因は何? なんで倒れたの? なんでキョンなの? どうして今日突然? 昨日までピンピンしてたじゃない! 病院につくと同時に、私はキョンの入院してる部屋まで駆け出した。 前もあったっけ、こんなこと。 クリスマスパーティの準備中に、あいつがいきなり。 やだ、思い出したくない! いやよ!いやよいやよ、いや! 気を失ったキョンの顔。 でもあの時は、ちゃんと起きたわよね。 そうよ! 今回も大丈夫なはず! じゃなきゃ許さない! 約束したじゃない、来るって! 胸へとつかえる何かを感じながら、私は病室のドアを開いた。 そして感じた、視線。 私を見つめる、妹ちゃんの目。 キョンの母親の目。 お医者さんの目。 そして、 キョン!よかった! キョンが私を見ていた。 意識は戻ってたらしい。 心配かけるんじゃないわよ!バカ! 私はキョンに駆け寄って、まくしたてた。 ホントは別のことを言いたかったけど、とにかく、無事でよかった。 ほんとに、よかった。 なんでそんな目で私を見てるの、キョン。 まるで、初対面を見るような─── 「ごめんなさい、あなたは、誰ですか?」 ―――――嘘って言ってよ 私は望んでいただけ そしてあいつは、それに応えてくれていた 私は調子に乗っていたのかもしれない 一度も、あいつの事を考えてあげなかった いや、考えてはいたのよ でも、結果的に、私はあいつを蝕んでいた そして、あいつが手のひらからこぼれおちた時 ようやく、そのことに、気がついたの キョン? 「キョンというのは、俺のことですか?」 何言ってるの? キョンはキョンよ、あなたでしょ 「すみません」 なんで謝るの? なんで?なんで?なんで? 「ごめん、なさい」 胸が痛む。 本当にキョンは申し訳なさそうな顔をする。 やめてよ。 「え?」 こんなの、キョンじゃない…… 「落ち着いてください、涼宮さん」 …みくるちゃん 「少し、話をしてもいいですか?涼宮さん」 キョンに聞こえないように私に呟く古泉くん。 古泉くん、話って何? 「彼の記憶喪失の原因についてです」 記憶、喪失? キョンが? うそよ、何それ。 何それ何それ何それ。 もしかしてそれが倒れた原因? 「医師の話によると倒れた理由も記憶を失った理由も同じらしいです。」 廊下で医師から一通りの説明をうけたあと、私は古泉くんと話していた。 古泉くんが続きを述べ始める。 「彼の精神は極度に疲労していた、それが倒れる原因になったと」 疲労? だって、そんなそぶりは一度も。 「長い間に蓄積されたものらしいです。」 どういうこと? 「例をあげて説明しましょう。 フラッシュバックというものがあります。 麻薬の一部には使用することで幻覚を見るものがあります。 その時の感覚が忘れられず人は使用を繰り返し、何度も使用するうちに麻薬は人の体を蝕みます。 重度の中毒者になった場合は、麻薬の恐ろしさに気づきやめるでしょう。 しかし、たとえ長い時間をかけて回復しても、ふとしたきっかけで全てが麻薬をしていた状態に戻ってしまうことがあります。 それが、フラッシュバックです。」 必死に理解する。 「つまり、彼の中には長い間精神的疲労、言わばストレスがたまっていきました。 しかし、そのストレスは小さなもので、簡単に消えていったはずです。 それが、何かのきっかけで消えたはずのストレスが一気に戻ったとします。 いわばストレスのフラッシュバックと言いましょうか、そうして、彼は倒れたのです。」 どうして? つまり悩みを抱えていたんでしょ? どうして私に言ってくれなかったの? 「それは、おそらく」 そこまで言って、古泉くんは口を閉ざした。 いつになく真剣なまなざし。 知ってるの? じゃあ、教えて。 「だめです」 なんで 「だめなんです」 教えないさいよ! 「涼宮さん……」 いいから、教えろって言ってんでしょうが!! ふと、気がつけば有希が隣に立っていた。 何? 「あなたは、知るべきではない」 何それ なんでよ? 「後悔する」 なんで? 「選択して」 何を 「知りたい?」 当たり前じゃない 「わかった」 「長門さん……」 「彼女は選んだ、知ることを。 だから伝える。」 「……わかりました」 「彼のストレスの原因は、」 私は言葉を待った。 沈黙で耳が痛くなった。 「あなた」 わたし? なんで、私なのよ。 「本当に、おわかりでないんですか?」 何を。 真剣なまなざしで、いつもと違う、怖い顔で私を見る古泉くん。 「彼はいつもあなたに合わせてきました」 ………… 「そしてあなたはまれに彼の精神レベルを超えた要求をしていたんです」 ………て 「それが彼のストレスとなった」 ……めて 「彼はあなたにこたえるために、いつも無理をしてきた」 …やめて 「彼はお人よしですからね」 やめて! 私は気がついたら両耳を抑えて叫んでいた。 「知ることを選んだのは、あなたです」 古泉くんは私に追い討ちをかける。 「だから伝えました、真実を」 いつからだったのだろう──── ────世界に色がついたのは いつからだったのだろう──── ────静寂に音楽が流れ始めたのは いつからだったのだろう──── ────いつも笑ってられるようになったのは いつからだったのだろう──── ────私の心にあいつが現れたのは いつからだったのだろう──── ────私の中のあいつがこんなにも大きくなっていた いつからだったのだろう──── ────あいつは、私にとって必要な人になっていた …ごめんね 私は泣いてた。 ごめんね、ごめんね、キョン 俯いて、両手で、顔を覆って。 ごめん、ごめん、ごめんなさい 有希が、倒れこもうとする私の体を支える。 「今日は、もう帰りましょう」 古泉くんがいつもの優しい口調になって喋る。 「あなたも、少し休むべきです」 うん、ごめんね。 「大丈夫です、おそらく一時的な記憶の混乱です、すぐに治りますよ」 そうね。 治ったら、いいな。 うぇえ… 「涼宮さん…」 どうやって帰ったのか覚えていない ただ、体がすごく重たかった ご飯は、全然おいしくなかった お風呂は、全然気持ちよくなかった どれだけ泣いたんだろう 枕は涙でびしょびしょだった でも、涙は枯れなかった 枯れてくれなかった 枯れるどころか、どんどん溢れでる 私にとって、それほどに大きくなってたんだ キョン 私は呟いた そして、泣き疲れて、寝てしまった 闇が、私を包んでいく 再び目を覚ましたとき、灰色の空の下、私は駅前の公園に居た。 そして、キョンがそこにいて、私を見ていた。 前にも似たような夢を見た。 夢よね? 夢、だよね? 目の前に立つキョンが私を見つめる。 私は耐えられなくなって視線を逸らす。 「ここは?」 キョンも驚いたような声を上げる。 当たり前よね、なんで私夢の中でまでキョンに迷惑を── 「ここは、覚えてる」 キョンが呟いた。 私は、はっとして彼を見据えた。 覚えてるって? 「なぜかはわからない」 キョンは私と目を合わせた。 私は今度は逸らさずに彼の瞳を見据えた。 申し訳なさそうな、でも、力強い瞳。 「ここに来なきゃいけない気がしたんです」 なんで? 「約束したから……」 私は、また泣いた。 ありがとう、覚えててくれて。 声を上げて泣いた。 ごめんね?ごめんね? ほんとに、ごめんなさい 私のせいで、私の、せい、で ふと、私の体がひっぱられた。 背中にキョンの左手が回される。 頭をキョンの右手が撫でる。 暖かい。 ありがとう。 ありがとう。 ありがとう。 もう少し、このままで。 「何、泣いてんだハルヒ」 ――――っ!キョン? じっとあいつの顔を見つめる。 いたずらっこみたいな表情で私を見る。 もしかして、記憶が? 「迷惑かけたようだな、悪ぃ」 軽く悪びれたそぶりで語るキョン。 迷惑? 迷惑かけたのは私のほうなのに? 「ハルヒ?」 私は、あなたにむりをさせたのよ!? 私は、あなたにわがままを押し付けたのよ!? 私は、私は、私は、あなたを、縛り付けたのよ!? 私、あなたに………謝りたかった 「ハルヒ」 何? キョンが私の目を見る とても力強く、決心したように。 私を抱いていた手に、力が入る。 痛いぐらいに、でも暖かい。 「どうして、俺がお前のわがまま聞いてたか、知ってるか?」 え? 「お前のことが大切だったからだ」 ………キョン? 「ハルヒ、俺はな、お前のことが──── え。 ふいに、目を覚ました。 頬を伝う涙。 体に残るあいつの温もり。 ベッドから降りる。 携帯を鳴らす。 再び、彼のもとへ 今度こそ、言えなかった言葉を。 ごめんね、と。 ありがとう、と。 そして───── ピリリリリリリ…… カチャッ 「もしもし?」 キョン? 「どうした?わがままな団長さん」 - 涼宮ハルヒの羨望 終 - 涼宮ハルヒの羨望、外伝 笑ってくれる 私のために 私みたいなわがままなヤツのために 嬉しかった すごく嬉しかった 私のわがままにつきあってくれる それがたまらなく嬉しかった ある雨の降る放課後 私とあなたしかいない部室 寝ているあなたにそっと呟いた ――――ありがとう ‐ 終 ‐
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「・・・・・・・・・・・やっぱりこのままじゃいけないみたいね・・・・・あのときやってさえいれば・・・」 俺たちももう高校二年生になり、桜の花もその役割を終え、新しい季節が 始まりを告げようとしていたとき、SOS団の活動もひと段落ついた学校の帰りの坂道で、ま~たハルヒが妙に気になることを呟いた。 まあ、どうせろくなことじゃないだろうがな。ハルヒのこの無茶な発言にもいいかげん慣れている。 この言い回し・・・・・ろくなもんじゃないってことはわかるぜ。 まあ、もっともこいつがまともなことを言ったことは雀の涙程度しかないがな。 まあ、朝比奈さんの新しいコスプレ衣装に関しては文句なしだがな。 しかし、今回に関してはなにか嫌なー予感ーがするぜ。 少なくとも、いらないのについてくるケータイ電話のストラップくらいろくなもんじゃないな。 で、今度はいったいどんなことを言い出すんだろう・・・・・ 思考をめぐらせてみよう。 ①UMA探索 ②UFOを呼ぶ ③地底人探索 ④GAN○Z部屋に行こう ⑤スタ○ド能力が使えるようになったのよアタシ! ⑥オ○シロ様の正体を探りましょう! ⑦幻○郷に行ってあの貧乏巫女にあいたいわ! ⑧聖○戦争に巻き込まれちまったぜ ⑨直○の魔眼を手に入れた ⑩左手が鬼になっちゃった ・・・ ・・・っと、これくらいかな。あいつが言い出しそうなのは。 しかし、こんな普通に考えるとほぼ100%できないようなことでも、言い出したら最後、飽きるまで暴走し続けるのがこの涼宮ハルヒの得意技だ・・・ ああ、もしかしたら俺、自称ハルヒ心理学者の古泉よりもハルヒの心境がわかるかもしれないぞ。 まあ、もっとも分かりたくもないがな。・・・・・・・おいそこ、嘘だッ!!っとか早くも叫んでるそこのお前、俺は断じて嘘などついておらん。 っていうか、なんで今の俺の考えが嘘と思われるのか知りたいところだ。 てか、俺は誰に向かって話してんだ?俺もそろそろヤバイかな。嘘は谷口の存在だけにして欲しいぜ。 ・・・・・・・・・・なぁんてことを溜息交じりに考えて、俺は手をやれやれだぜといった具合にしながら、ハルヒに問いかけた。 「どうしたんだハルヒ?このままじゃいけないって・・・・・なにがだ?俺はこのままで十分高校生であるべきLifeを堪能しているがな。なにより朝比奈さんが淹れてくれるお茶はそれはもう言葉では言い表し難い程ウマイし、長門は無口、無表情、無感動の3M(?)だし、古泉は古泉だし、何一つとして困ることや不安はないと思うが?」 それにしても、俺たちももう高校二年生か。しっかし色々あったな。 まぁ、色々ありすぎたわけだが。朝比奈さんはもう3年生かあ・・・・・・ 早いものだ・・・・・・・・朝比奈さんは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・3年生・・・・・3年・・・・卒業・・・・・・・・ん?・・・・・・ってちょっと待て! 俺たちよりも早く卒業するとなると、あ、あの極上のお茶・・・別名「天使の涙」(命名俺)が、もう飲めなくなるじゃねえか!! ・・・・・・・・・参ったぜ畜生、思わず声に出しちまったじゃねえか。 ほら、さっき道の角ですれ違った中学生っぽい男の子も、俺のほう見てるよ・・・・・ああ、ハルヒもあきれてモノもいえないみたいだな。 ・・・・・・・で、どの部分から声に出ていたのだろうか? このときの俺には知る由もなかった・・・・・・ ~角川書店 著者キョン『倦怠に満ちた俺の日々』より~ 「・・・・・・あんたもう相当頭が谷口化しちゃったみたいね・・・・・・・・そんなんだからいつまで経っても本名で呼んでもらえないのよっ! 団長の気持ちもわからないようじゃ今後、一生雑用みたいね。 ・・・それはさておき、去年の文化祭のライブ覚えてる?バンド演奏よ。あれ来年の目的とかいって、それからSOS団のライブ活動をちょこっとやっただけじゃない。あの応募して落選したやつ。なんか落選したらさ、もういいや~って思えるようになってね? それっきりやってないじゃない!やっぱり続けるべきなのよ!」 おいおい、バンド演奏ならもういいじゃねえか。それに、俺はもうハルヒの作り出した曲で、あのわけのわからん音符の怪物と戦うのはもういやだぜ? サウンド・ウォーム(命名俺)だっけか? まあ、せっかくベースも弾けるといってもいいレベルまで達したわけだし?俺としても、やりたくないなんていったら嘘になるな。そんな心にもないこといったら針千本を飲まされるぜ。 しかし、俺たちももう高校二年生だ。来年は受験だし、二年の成績はかな~り内申に響くんだぜ? もし、あまりにもできないんで補習!・・・な~んてことになったら、俺はお袋の怒りを買いかねない。 そうなったら最後、バンドはおろかSOS団の活動の参加すら危ういんだぞ。 え~、つまり、大きくまとめると第一に、ハルヒが作った曲にはあのトンデモパワーが宿り、それを聞いたら最後、一生その曲が頭の中で これ以上聴いたらノイローゼになりかねないぞくらいのリピート状態になる。 第二に、俺たちはもう高校二年生だ。わかる?受験だよぉ~・・・ そういうことだからさ、いいかげんそこんとこ学習しようぜ!ハルヒ! ・・・・・という理由である。 まあ、俺的には後者のほうが大きいかな。 理由としては。 しかし、学習してないのは俺も同じだった。 つかさ、俺が本名で呼ばれないのとさ、そこで谷口の名前が出てくる意味がわからねえ。 「なに言ってんの!SOS団の団員である以上は、好成績を残さないとだめだめよ!補習なんてもってのほかだわ!・・・・・・・・・こりゃあま~たあたしが勉強を教えるしかないようねぇ~♪」 はい、俺の話は全然届いていなかったようだ。ようするにやめて欲しかっただけなのにな。ていうか妙にうれしそうだな~、ハルヒよ。 バカに勉強を教えるのは、ペットに芸を教える感覚と類似したものがあるのだろうか?だとしたら、俺には一生無縁な感覚だな。 「バ、バカッ!ぜんっぜんうれしくなんかないわよっ!このうんこっ!」 わかった。もううんこでいいからさ、ネクタイをこれからカツアゲする不良みたいに引っ張らないでくれよ。 でもまたなんで急にそんなことを思いはじめたんだ? 「ハァハァ・・・・・・ふぅ・・・・それはね、昨日部屋のなかを整理してたらね、ビデオが出てきたのよ。結構古かったわね~。それをさ、なんとなく再生してみたら、昔やってた音楽番組だったのよ。でね、あるバンドの演奏してる姿を見たのよ。 それみたらもういても経ってもいられなくなってね! あれがまたすごいのよ! あの哀愁漂うアルペジオのイントロから始まり、終わったかと思いきや、ここから『静』から『動』!ヴォーカルがね、なんていったかしら・・・・・あ、そう!紅だああああああ!!って叫んだのよ! そしたらね、そこからはもう疾走感溢れるアップテンポでね~。 ホント、あれ見て思わず身震いしたほどよ! あのバンドの名前なんていったかしら・・・・・・・・たしか・・・・・アルファベットだったような・・・・? あ、Xなんとかだったわ! 」 こいついったいいくつなんだ? XJAPANだろ?そんでもって曲は紅だ。 なんでそんな古いもん見て興奮するんだよ。Xっていや~・・・・・1989年デビューしたんだっけか。 お袋がファンで、嫌というほど話を聞かされたから覚えてる。 紅はデビュー曲だよな。聴いたことはないけど・・・・・ ああ、そういやこいつ、ロックも聴くんだっけか。いつだったか、『マリリン・マンソン』の曲を口ずさんでたっけ・・・・・・・・・・ 興奮するのも分かる気がする。 「そう!それよ! XJAPAN!懐かしいわね~♪」 だから、お前一世代古いって。 「なにいってんのよ! 彼らの1番の魅力は、『時代を感じさせない音楽』 よ! 『DAHLIA』や、『ART OF LIFE』なんか、90年代の曲だけど、今の邦楽なんかには感じない凄味があるわ! 全然色褪せてないもの! あんたも一回聴いてみなさいよ!絶対ハマルって!」 だ~か~ら~、ハルヒよ、俺はもう勉強でいっぱいいっぱいなの。 そんな音楽聴いてる暇なんかないぞ。 「勉強はアタシが見てあげるっていってんでしょうが!人の話は最後まで聞きなさい! アンタの悪い癖よ! ・・・・・・・・!! 思いついたわ・・・・・・・・!!」 嫌なー予感ーがする。またなんかバンドで俺たちを巻き込むつもりだ・・・・・・・・・・。 まあ、それはいいか! ハルヒが見てくれるって言ってくれてるしな。こちらとしてもそれは大いに助かる。巻き込まれてやろうじゃないか。 なんだかんだいって、俺もバンドをやりたいらしいな。 Xにも興味があるし。・・・・・・で、その思いついたことはなんだ? 「前のときは、容姿が普通すぎたからダメだったのよ! 今度からは、あれよ、あれ。ん~っと・・・・・そう! ヴィジュアル系! これしかないわ~。 邦楽でいいのは、ほとんどヴィジュアル系だしね!PIERROTに、LUNASEA、PENICILLIN、Laputa、Dir en grey、ラファエル、プラスティック・トゥリー、CASCADE、陰陽座、Janne Da Arc、ラルクアンシェル、SHAZNA、上海アリス幻○団・・・・・あげたらきりがないわ!」 わかった、わかったからもう言わなくても、いいぞ? ていうか90年代多いな。ほんとは年ごまかしてんじゃねえのか?・・・・・ていうかさ、ラルクアンシェルをV系呼ばわりしたら、怒って帰っちまうぜ? それに上海アリス幻○団はヴィジュアル系でもないし、バンドでもねえよ。 それに、前に落ちたやつの応募方法は、デモテープを送ることだったろ? 容姿なんて見えないんだから意味ねえじゃねえか。ああ!つっこみどころが多すぎる! 「細かいところは気にしなくていいの! それもあんたの悪い癖よ! それに!アタシがV系っていったら、それはもうV系なの!わかった!? ・・・・・で、これからキョンの家にみんなを呼んで邪魔しようと思うんだけど。 どうせ親はいないでしょ? だったら早くいきましょ!もういても経ってもいられないの!」 どうやらこいつの辞書には遠慮という単語は存在していないようだ。ま、別にかまわんが・・・・・・・・いったいなにをしに来るんだ? 「練習よ練習!みんなだいぶうまくなったようだけど、アタシから見たらまだまだよ。みんなが作詞作曲できるようなレベルにならないとね!」 それはレベルが高すぎだろう。思わず溜息が出ちまったじゃねえか。 気づけば、俺たちがいつも分かれる道まで来ていた。 早いもんだな。 「それじゃあ! 準備が整い次第! あんたの家に行くからねっ!ちゃんと片付けておきなさいよ!」 じゃあねと手を振ったハルヒは、そのまま元気良く走り去って行った。 「やれやれだぜ・・・・・・」 思わずだれかのセリフが出ちまった。 俺はこのあと、ハルヒが去っていった道をただボーっと突っ立って眺めていた。 「そろそろ帰るかな・・・・・」 ハルヒたちが来るので、部屋の片付けを済ませなくちゃならなくなった。やらなかったら死刑っぽいからな、うん。 死刑はやだろ?死刑は。 そして俺は、自分の家に帰るために歩を進め歩き始めた。 これからどんなことになるのかな? なーんてことを考えながらな。 しかし、俺が思っている以上に、大変な出来事に遭遇することは、このときの俺には知る由もなかった・・・・・・・・・・ 続く